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入母屋屋根(いりもややね)

切妻屋根と寄棟屋根を組み合わせ、上部が切妻・下部が寄棟となる伝統的な屋根形状。四方に軒が回り、重厚で格調高い外観を持つ。

入母屋屋根は、日本建築を象徴する意匠の一つで、寺社仏閣や城郭、数寄屋・書院造りの流れを汲む和風住宅で古くから採用されてきました。屋根の上部(妻側)で切妻の破風を見せ、下部を寄棟として四周に軒を巡らせることで、雨仕舞い・日射遮蔽・意匠性を高いレベルで両立します。四方に深い軒があるため外壁の濡れを抑え、経年による劣化を軽減できる一方、形状が複雑で谷部・隅棟・降り棟・隅木など取り合いが増えるため、設計・施工の難易度は高くなります。伝統的な瓦葺きとの相性が良く、冠瓦や熨斗瓦、鬼瓦などの役物を適所に配することで耐風・耐雨・意匠の三立を図れますが、現代では軽量化や耐震性の観点から金属屋根・スレートを併用するケースも増えています。地域の気候(多雪・多雨・強風・海岸部の塩害)に合わせて勾配・葺き材・板金ディテールを最適化し、通気・断熱・防湿の連続性を確保することが長期耐久のカギです。

屋根材別の耐久性と価格の目安

伝統的には瓦との親和性が高いが、現代では軽量金属やスレートも選択肢。以下は一般的な目安で、気候・施工品質・メンテで前後する。

和瓦・洋瓦(粘土瓦)耐久性
約50年〜100年程度

和瓦・洋瓦(粘土瓦)価格
8,000円〜13,000円/㎡

スレート瓦(化粧スレート)耐久性
約10年〜20年程度

スレート瓦(化粧スレート)価格
4,000円〜6,000円/㎡

ガルバリウム鋼板耐久性
約25年〜35年程度

ガルバリウム鋼板価格
5,000円〜10,000円/㎡

補足
入母屋屋根は隅棟・谷樋・降り棟などディテールが多く、どの材料でも「雨仕舞いの精度」が寿命を大きく左右します。瓦は重厚で耐久性・意匠性に優れますが重量があり、構造計算と耐震配慮(屋根軽量化や補強)が必須。スレートは軽量・価格優位だが塗膜劣化を見越した定期塗装計画が不可欠。金属は軽量・耐食性に優れ複雑形状に対応しやすい反面、遮音・断熱は下地で補う設計が要点です。

メリットとデメリット

意匠・機能・保全の観点から、採用時の判断材料を整理。

メリット
四方に軒が回るため外壁が雨や直射に晒されにくく、外装の長寿命化に寄与
棟・破風・隅棟が作る立体的な陰影により重厚感と高級感のある外観
切妻上部の有効換気(棟換気・妻換気)と下部寄棟の庇効果で、通気・遮熱計画が立てやすい
寄棟単体よりも南面の大きな屋根面を確保しやすく、太陽光パネルの配置自由度が高い
伝統意匠(和瓦・鬼瓦・巴・熨斗瓦)を活かした文化的価値の創出

デメリット
形状が複雑で谷部・取り合いが多く、雨漏りリスクが相対的に高い
熟練職人による高度な瓦役物施工・板金加工・ルーフィング納まりが必要で、工期・コストが増加
屋根重量が大きくなりやすく、耐震上の配慮(構造補強・軽量材選定)が不可欠
雪庇・吹き溜まりが生じやすい箇所があり、多雪地域では雪止めや落雪対策が必須

設計・施工・メンテナンスの要点

長期的な防水性能・耐風耐雪・快適性を担保するための実務ポイント。

設計(計画)
屋根勾配は材料許容勾配以上に設定し、谷部への集中流量を想定した断面・オーバーフロー経路を設計
隅棟・降り棟・大棟の取り合い位置を最小化し、納まり標準図を作成して施工誤差を抑制
小屋裏の連続通気層(軒先→棟)を確保し、断熱・防湿層の位置を結露計算で決定
屋根重量が大きい場合は小屋組・梁成・筋交い・金物計画を強化し、必要に応じて軽量屋根材を選定

施工
ルーフィングの重ね幅・立ち上がり・貫通部処理(太陽光金具・換気部材)を規定通りに
谷樋は捨て谷+本谷の二重構成や幅・深さの余裕を確保し、枯葉・氷雪詰まり対策を実装
瓦葺きは役物(軒瓦・袖瓦・熨斗瓦・巴・鬼瓦)と棟積みの緊結・通気・排水経路を両立
板金は唐草・ケラバ水切り・棟包みの水返し形状とビスピッチの遵守、海岸部は厚めのめっき・塗装系を選定

メンテナンス
年1回以上の定期点検(台風・豪雨・降雪後は臨時)
谷樋・軒樋・ドレンの清掃で堆積物を除去、詰まり・オーバーフロー防止
棟・隅棟の浮き、面戸やシーリングの硬化・剥離、板金のめくれやビス緩みを早期補修
外壁は軒の陰で劣化が遅いが、妻側や入り隅部の雨染み・ヘアクラックを早期是正

保険・リスクマネジメント
風災・雪災・雹災は谷部・隅棟・ケラバでの被害が出やすい
被害時は全景→近景→破損詳細→ディテール→室内漏水痕の順に写真記録を定型化
工事図面・施工写真・材料ロット・保証書を保管し、申請時の根拠資料を整備

入母屋屋根についてまとめ

重厚な意匠と外壁保護に優れた伝統屋根。複雑形状ゆえの雨仕舞い難易度と重量対策を設計・施工・点検で解決する。

入母屋屋根は、四方に軒を巡らせることで外壁を守り、夏季の遮熱や冬季の雨雪対策にも効果を発揮する一方、谷部・隅棟などの取り合いが多く、防水ディテールの確実性が寿命を左右します。伝統的な瓦葺きは意匠性と耐久性に優れますが、重量増に伴う耐震対策が必要です。軽量金属やスレートを用いる場合も、遮音・断熱を下地で補い、貫通部や谷樋の納まりを標準化して品質を安定させることが重要です。計画段階で勾配・通気・排水経路・構造を総合検討し、施工段階では留め付け・重ね・立ち上がり等の規定値を厳守、竣工後は定期点検と清掃・小修繕を継続することで、重厚な意匠と長期耐久を両立できます。和風住宅はもちろん、モダン和風や和洋折衷の建築にも適合し、景観価値の高い屋根として選ぶに値する形状です。

建物材質・種類 - 屋根形状種類

R屋根
のこぎり屋根
バタフライ屋根
寄棟屋根
腰屋根
腰折れ屋根
差し掛け屋根
招き屋根
切妻屋根
棟違い屋根
入母屋屋根
半切妻屋根
片流れ屋根
方形屋根
陸屋根