MENU

木材の庇(ひさし)

木材の庇は、住宅の開口部(玄関・勝手口・掃き出し窓など)の上部に設ける小屋根を木質系の部材で構成したものです。近年は「木材のみ」で仕上げる例が減少し、骨組みに耐水性が期待できるヒバなどの針葉樹を用い、外装側をガルバリウム鋼板や銅板などの金属板で被覆するハイブリッド構成が主流です。木の質感やディテールを活かしつつ、金属外装で耐候性を補強するのが実務上の基本方針です。

木材庇は意匠性の自由度が高く、勾配・出幅・面積・鼻隠しや化粧垂木の寸法を現場条件に合わせて細かく最適化できます。木材のみで露出仕上げとする場合は、含水率・繊維方向・節の位置・架材の反りや捻りを考慮し、雨仕舞い(上端水切り・ケラバ水返し・鼻先の滴り)を丁寧に設計する必要があります。近年一般的な「木下地+金属板被覆」では、通気層を確保しつつ、下葺き(ルーフィング)と役物(唐草・ケラバ・雨押え)を適正配置して浸水経路を遮断します。屋外で恒常的に受ける紫外線・雨・温湿度変化・凍結融解・塩分・粉じん等の環境劣化は木材の寸法安定性に直結するため、設計段階から「湿気を溜めない」「乾きやすい」「交換しやすい」納まりを優先し、部品ごとのライフサイクルを分離するのが要点です。

主な仕様とバリエーション

木材庇の性能と意匠は、用いる樹種、断面寸法、接合方法、仕上げ・被覆材、排水計画の組み合わせで決まります。

樹種の選定

ヒバ(ヒノキアスナロ)やヒノキ、サワラなど油脂分を含み耐朽性に優れる樹種が骨組みで多用されます。スギは軽量で加工性に優れますが、外装被覆との併用や薬剤処理で耐久性を補強します。広葉樹(オーク等)は高剛性ですが重量・コスト増を伴うため意匠部材に限定する設計が現実的です。

断面とスパン

出幅と荷重条件(積雪・風圧・点荷重)から母屋・垂木の断面を決定します。出幅が大きい場合は持ち出し金物や方杖(ブラケット)で曲げモーメントを分散させ、端部の撓みと接合部の剛性不足を抑制します。

接合方法

ビス・ボルト・仕口のハイブリッド。耐食処理された金物を用い、木口割れを避けるための下穴加工・座堀(ワッシャ)を適正化。屋外露出金物は電食・錆対策を前提に選定します。

仕上げ/被覆

木材のみの露出仕上げ、もしくはガルバリウム鋼板・銅板・アルミ板等の金属被覆。木口・小口の吸水を止めるため端部シールや役物で保護し、化粧木部はUVカット塗料や含浸系防腐防蟻材で処理します。

排水と通気

庇勾配は最低限確保し、上面で水が滞留しないようにします。被覆の下に通気層を設け、裏面結露や含水上昇を抑制します。樋の有無は立地や出幅で判断し、跳ね水で外壁を汚損させない納まりを選択します。

耐久性・価格・性能

木材庇は適切な樹種選定と被覆・防水納まりにより長期使用が可能ですが、環境影響を受けやすいため維持管理設計が不可欠です。

耐久性の目安

約30年程度。被覆金属やシーリング、塗膜、取合い金物の寿命はそれぞれ短い場合があるため、部位ごとの交換サイクルを前提に設計します。劣化兆候として、木口割れ、表面の退色・チョーキング、金物周りの黒染み(タンニン汚れ)や赤錆、シールの痩せ・亀裂、金属被覆のピンホール腐食などが挙げられます。

価格の目安

100,000円〜600,000円/箇所。出幅・幅・形状(片流れ・方形・一体樋)、樹種と等級、被覆金属の種類・板厚、役物点数、施工条件(高所・足場・狭小)がコストに影響します。造作度が高くなるほど現場手間が増し、見え掛かり精度の要求が上がるため単価は上昇します。

メリット

加工しやすく、開口寸法や外観に合わせたオーダーメイドが容易。部材の入手性が高く、局所補修・交換がしやすい。木の温かみ・陰影表現により外観の質感向上。金属被覆と組み合わせることで軽量・高耐候の両立が可能。

デメリット

木材のみは耐水性が低く、吸放湿による寸法変化・反り・割れが起きやすい。温度・湿度・紫外線の影響を受けやすく、定期的な塗装・シール更新が必須。端部からの吸水で腐朽やカビ・藻の発生リスク。被覆や塗装などの保護措置が前提となる。

設計・施工・維持管理と保険の要点

長期安定運用には、荷重・防水・通気・交換性を織り込んだ設計と、丁寧な施工・点検のルーチン化が重要です。

設計

荷重条件:地域風速・積雪・落下物・想定外荷重(物干し等)を反映し、支持金物・断面・ピッチを決定。出幅増加に伴う回転モーメントをブラケットや方杖で受け、アンカー仕様を強化します。防水納まり:外壁との取り合いは雨押え・捨て水切り・透湿防水シート連携で浸水経路を遮断。三面接着の回避、端部の毛細管対策、シールのプライマー適合確認を行います。通気と乾燥:被覆下の通気層・換気スリットにより乾きやすい構造とし、野地板や垂木の含水上昇を抑制します。交換性:鼻先や役物をビス留め化し、先行・後行の順序を検討して部分交換を容易にします。

施工

下地の確実な緊結:仕上げ材のみの固定を避け、躯体(梁・間柱・胴差)に緊結。穿孔深さ・清掃・注入量の管理を徹底。材料養生:木材は現場含水率を管理し、雨天・直射日光下の放置による反りを防止。見え掛かり精度:通り・勾配・出寸の均一化、鼻先の滴り線形成、役物の継手位置調整で美観と耐候を両立。

維持管理

点検周期:年1回(海浜・多雪・強風地域は半期毎)を目安に、塗膜の劣化・シール切れ・金物の緩み・腐食・被覆の浮き・木口割れを確認。必要に応じて早期補修。清掃:落葉・土砂・鳥害による堆積を除去し、跳ね水汚れを抑制。更新:塗装は環境に応じて数年〜十数年サイクル、シールは硬化・亀裂の兆候で打ち替え。木口は再含浸処理を実施。

保険の観点

台風・突風・雪害・飛来物での破損・剥離は、火災保険の風災・雪災等の対象となる可能性があります。経年劣化や施工不良起因は対象外になりやすいため、災害発生時は発生日・気象条件・被害範囲・破断箇所・周辺の飛散物痕跡を写真・寸法で記録し、修繕見積は部材・数量を明確化すると円滑です。落下により第三者へ損害が及ぶ恐れがある場合は、施設賠償責任保険の活用も検討します。

木材の庇についてまとめ

木材庇は、加工性と意匠性の高さで開口部に最適化された形状を実現でき、金属被覆と適切な雨仕舞いを組み合わせることで長寿命化が可能な外装部材です。

耐久性は約30年程度、価格は1〜60万円/箇所が目安です。骨組みには耐久性の高い樹種を採用し、被覆金属・役物・通気・排水・防水シールを総合設計すれば、温湿度や紫外線、降雨といった外的要因に対して安定した性能を発揮します。施工段階では躯体への確実な緊結と材料養生、見え掛かり精度が品質を左右し、運用段階では定期点検と小規模補修を早めに回すことで、腐朽や雨漏りの芽を摘むことができます。自然災害による損傷は保険適用の可能性があるため、日頃から写真・図面・数量の整備を行い、被災時の立証を容易にしておくと安心です。意匠性・コスト・耐久性のバランスを見極め、木材の魅力を活かしながらメンテナンス性に優れた庇計画を行ってください。

建物材質・種類 - 庇材料

アルミニウム
ガラス
木材
ポリカーボネート
ガルバリウム