スチールサッシ
スチールサッシは、鋼材を用いて枠・障子を構成する窓枠で、アルミサッシ普及以前の鉄筋コンクリート造(RC)建築を中心に広く採用されてきた歴史ある建具です。鋼の高い耐火性と剛性により重厚でシャープな見付を実現し、工場・店舗・学校・病院などの商業・公共施設で現在もセミオーダー/フルオーダーにて用いられています。一方で鋼は腐食に弱く、溶融亜鉛めっき(HDZ)やエポキシ系プライマー+上塗りなどの防錆処理、定期的な再塗装と点検が不可欠です。断熱・気密に関してはアルミや樹脂複合に劣る側面があり、計画段階から熱橋対策や開口計画を含めた総合設計が求められます。
耐久性は約10〜30年が目安で、環境条件・塗装グレード・メンテナンスの有無により大きく振れます。価格は既製品が少ないため「メーカーに相談」となるのが一般的で、参考としてセミオーダーの片開きドアで40,000円〜程度から。窓種・サイズ・ガラス仕様・金物・表面処理・現場条件によって総額は大きく変動します。採用判断では耐火・強度・意匠性の利点と、腐食・断熱・気密・保守性の課題を天秤にかけ、用途と立地に適合させることが重要です。
スチールサッシの基本特徴
鋼ならではの「耐火・強度・意匠自由度」を軸に、歴史的背景と現代的価値を整理します。
● 耐火性能と構造的信頼性
鋼は耐熱変形に強く、火熱時の性能が重視される用途で安心感があります。防火戸や延焼ライン近傍では仕様選定が容易で、扉・窓まわりの防火区画計画にも馴染みます。枠・方立・中桟の断面設計次第で大開口でも剛性を確保しやすいのが利点です。
● 重厚感の演出と意匠性
細い框でもシャープな直線とエッジを出しやすく、ブラックやダークグレーの艶消し仕上げはインダストリアルな雰囲気を強調します。躯体との納まり自由度が高く、格子割りやトランサム、FIXと可動の組み合わせなどデザインバリエーションが豊富です。
● 既製品が少なくオーダー中心
住宅市場では既製サッシが主流のためスチールの既製品は稀で、商業施設向けにセミオーダー/オーダー対応が基本です。製作図の確定から塗装仕様、現場実測、吊り込みまでの段取り設計がプロジェクト進行の鍵になります。
耐久性・価格・導入時の考え方
ライフサイクルコスト(初期+維持)と運用環境を合わせて評価するのが合理的です。
● 耐久性の目安(約10〜30年)
都市部の排ガス・粉じん、海沿いの塩害、結露が発生しやすい高湿環境では腐食進行が速まります。HDZ+重防食塗装や、ドレン孔・水切り・端部シールの徹底で長寿命化が可能です。蝶番・クレセント・戸車(引違いの場合)など消耗部の交換計画も寿命に直結します。
● 価格の見方(メーカー相談/参考40,000円〜)
開口寸法、ガラス(単板・複層・合わせ・Low-E)、金物グレード、防火仕様、塗装系(粉体・2液ウレタン・フッ素)、現場条件(足場・搬入経路)で見積りが変動します。比較時は仕様・範囲(カバー工法の有無、養生・復旧)を揃えて評価しましょう。
メリットとデメリットの整理
採用判断を明確化するため、長所と短所を実務観点で対比します。
● メリット(耐火・強度・重厚感)
耐火性能に優れ、商業施設・公共建築との親和性が高い/強度があるため大開口・細框設計が取りやすい/黒系マット塗装などで重厚な外観を演出でき、ブランド店舗の世界観づくりに向く。
● デメリット(耐食・断熱・気密)
耐食性が低く、定期塗装・点検が不可欠/熱橋が生じやすく断熱性・気密性に弱点/既製品が少なく、設計・製作・現場管理の負荷が高い。これらの課題を仕様・運用で補う計画が前提となります。
設計・施工のチェックポイント
腐食抑制・熱橋低減・操作性の三点で、詳細納まりを事前に固めます。
● 防錆設計と排水計画
溶接部の研磨・シール、隅角部の止水、ドレン孔と水切りの確保を徹底します。塗装は素地調整→プライマー→中上塗りの順で、現場補修が必要な角・切欠き部はタッチアップを忘れずに。下枠の溜まり水は腐食の起点になるため回避します。
● 断熱・気密ディテール
躯体との取合いで断熱の連続性と気流止めを確保し、熱橋を抑えます。ガラスは複層・Low-E・合わせの選択で体感を改善。必要に応じて内窓(二重化)を併用し、冬期の結露・放射冷却の影響を軽減します。
● 金物と操作感の最適化
蝶番・ラッチ・クレセント・戸車のグレード選定と取付精度が寿命を左右します。重い障子はソフトクローズやドアクローザーで安全性を高め、強風地域では戸当たり・ストッパーを設置してバタつきを抑制します。
メンテナンスと劣化対策
定期点検と早期補修が、腐食拡大と機能低下を防ぐ最短ルートです。
● 点検サイクルと再塗装
年1回を目安に塗膜のチョーキング・剥離・赤錆の有無を確認し、腐食部はケレン→防錆下塗り→上塗りで補修します。海沿い・幹線道路沿いでは清水洗いの頻度を上げ、汚れと塩分の堆積を防ぎます。
● 可動部・シール・ガスケットの交換
動作が重い、異音がする、隙間風が増えたなどは、戸車・蝶番・ブラシ・パッキンの交換サインです。シール材の痩せや破断は雨仕舞い悪化と腐食加速につながるため早期対応します。
● 結露・カビ対策の運用
冬季は換気・除湿・送風で窓際に停滞する湿気を動かし、朝の拭き取りを習慣化します。内窓やロールスクリーンの併用で表面温度を底上げし、露点到達を回避します。結露水の排出経路(受け・水切り)を確保すると建具・仕上げの汚損を防げます。
適用シーンと代替案の比較
用途・立地・デザイン方針から最適解を選び、必要に応じて代替材と組み合わせます。
● 採用が向くケース
防火区画を伴う商業施設、重厚なブランド演出、細框で大開口を取りたい計画、既存RC建物の意匠踏襲など。工場・倉庫の高所FIXや店舗の連装FIXでも存在感を発揮します。
● 不向きになりやすいケース
寒冷地の居室開口や結露リスクの高い水回りは、断熱・防露の観点で不利です。保守を前提としない無人施設や、塩害の極端に強いエリアも慎重な検討が必要です。
● 代替案(アルミ・複合・内窓)との住み分け
断熱・保守性重視ならアルミ樹脂複合や樹脂サッシ、意匠重視で軽量ならアルミ形材、遮音・断熱の体感改善は内窓併設が有効です。ファサードにスチールの重厚感を生かし、居室側は複合・樹脂へ切り替えるハイブリッドも一案です。
スチールサッシについてのまとめ
スチールサッシは、耐火・強度・重厚感という明確な価値を持ち、商業施設や公共建築で今なお選ばれる窓枠材料です。耐久性は約10〜30年、価格はメーカー相談(参考:セミオーダー片開きドア40,000円〜)が目安となります。
課題は耐食・断熱・気密ですが、防錆仕様(HDZ+重防食塗装)、排水・止水ディテール、複層ガラスや内窓の併用、定期点検と再塗装で十分に運用可能な品質へ引き上げられます。用途・立地・意匠方針を踏まえ、代替材との役割分担を設計初期に決めることが成功の近道です。重厚な世界観を求めるファサード、耐火性能が重視される区画、細框での大開口が必要な場面では、スチールサッシは今も有力な選択肢です。
建物材質・種類 - 窓枠材料
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