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分損

分損とは、対象物が修理・補修で機能回復でき、かつ修理費用が支払基準でみた価値(時価や再調達価額の枠内)を超えない損害区分を指します。全損と異なり、原状回復に必要な実費を中心に保険金が算定されます。

火災保険・企業財産の保険など物的損害を扱う保険では、事故後に「修理可能か」「修理が経済合理的か」という観点で、全損か分損かを判定します。分損に該当すれば、破損部位の修理・交換費用、付帯作業費、仮設・養生費などが支払の中心となります。支払基準が時価の場合は減価分を控除、再調達価額方式なら同等復旧の範囲で支払うのが基本です。

分損の基本理解

全損とのちがい、修理可能性、経済性の三点で整理します。

分損の定義

事故で損壊しても、対象が修理・交換で実用に復する場合を分損と呼びます。修理費が対象の価値(支払基準でみた価値)を超えないことが前提です。

全損との対比

焼失や流出などで復旧不能、または修理費が価値を超え非合理な場合は全損です。全損では対象価値の上限で支払われ、分損では原状回復費が中心となります。

時価と再調達価額

時価は再調達価額から経年・摩耗等の減価を控除した額です。時価基準契約の分損では、修理費が時価を超える場合に支払上限が時価に縛られる点に注意します。

再調達価額基準の契約では、同等品質での復旧費が上限です。高グレード化や追加機能は原則自己負担となり、原状回復の範囲が保険対象になります。

分損時の保険金算定のながれ

復旧内容の妥当性、支払基準、按分の要否を順に確認します。

原状回復費の把握

被害部位の修理・交換費、付帯作業、仮設・養生、運搬・処分、復旧に直結する調査費等を積み上げます。過剰仕様やグレードアップは原則対象外です。

支払基準と上限

時価基準では修理費が時価を上回ると超過部分は支払対象外、再調達価額基準では同等復旧の範囲で支払います。保険金額自体が上限枠である点も忘れずに整理します。

一部保険時の比例填補

保険金額が保険価額を下回る契約では、支払が比率按分となることがあります。例では保険価額三千万円に対し保険金額二千万円なら二分の三の比率で按分されます。

自己負担(免責)やフランチャイズ、特約限度額の控除・上限も同時に反映されます。複数の枠が重なるため、見積明細を項目ごとに整理して適用ルールを突き合わせます。

具体例で見る分損の計算

数字でイメージを掴み、按分や免責の影響を確認します。

住宅屋根の風災例

例の設定
建物の保険価額 2,700万円
保険金額 1,800円
修理見積 80万円(同等材交換・足場・廃材処分込み)
免責 1万円

按分比率は1,800万円/2,700万円で3分の2。免責差引後の79万円に按分をかけ、支払見込は約526,000円となります。

設備機器の水濡れ例(再調達基準)

例の設定
支払基準 再調達価額方式
修理見積 60万円(メーカー修理・部品交換)
特約限度 臨時費用 10万円まで

同等復旧の60万円が原則支払対象。臨時費用は約款要件範囲内の追加費用のみ上限十分の範囲で加算、グレードアップ分は自己負担です。

例示はいずれも分損で、修理が合理的かつ価額枠内に収まっています。評価・免責・限度・按分の4要素を並べて確認するのが実務のコツです。

分損判定で争点になりやすい点

偶然性・外来性、経年劣化の線引き、修理範囲の妥当性が焦点です。

偶然性と外来性

台風・突風・飛来物・漏水など外部からの作用で突発的に生じた損害であることが前提です。慢性的な雨漏りや摩耗は対象外となりやすい領域です。

経年劣化との区別

割れ・腐食・錆・シーリング劣化など、長期進行は補修・維持の問題と判断されがちです。事故直後の状態、破断面の新旧、周辺の同時被害など客観資料で立証します。

修理範囲の妥当性

全面張替と部分交換の選択、色・柄合わせの必要性、部材の製造中止による代替可否などが論点です。既存同等の入手困難時は近似材での復旧方針を明示します。

機器類ではユニット交換が合理的な場合と、主要部品交換で十分な場合があります。メーカー所見・写真・型式情報の提出が判断を早めます。

必要資料と進め方

早期連絡、被害拡大防止、証拠保存、妥当見積の四本柱で対応します。

写真・動画記録の徹底

近景・中景・遠景、破損箇所の型式やシリアル、被害の広がりが分かる全景を撮影します。撤去や廃棄の前に原状の証拠を確保します。

見積と工法の比較

複数業者で工法と価格を比較し、原状回復に必要十分な範囲を明確化します。グレードアップ項目は別建てで区分しておくと審査がスムーズです。

評価資料の整備

図面・仕様書・過去の工事記録・購入時の価格情報を整理します。時価基準の場合は経年の裏付け、再調達基準では同等材の市場価格の根拠を持ちます。

ハザードマップや気象データ、近隣同時被害の情報も外来性の裏付けに役立ちます。保険会社への連絡は、発生日時・場所・状況・概算被害の四点を端的に伝えます。

分損に関連する契約上の注意

超過保険・一部保険・特約限度・自己負担の設計が結果を左右します。

超過保険の無効部分に注意

保険金額が価額を超える部分は無効です。過大加入は保険料の払い損となるため、価額や再調達費を定期点検します。

特約限度と回数制限

臨時費用、片付け費用、持出家財、漏水見舞金などは別枠限度・回数が設定されることがあります。分損時の加算可否を約款で確認します。

共同保険・重複契約の調整

複数社で同一リスクをカバーしている場合、負担割合で按分支払になります。通知・按分の手続を忘れずに行います。

更新時は物価動向、建築単価、設備の追加・用途変更を反映し、分損が起きた際に過不足のない支払ができる金額設計に整えます。

分損についてまとめ

分損は、同等復旧を前提に原状回復費で支払う損害区分です。評価・按分・免責・限度の四要素を整理して請求精度を高めましょう。

判定は修理可能性と経済性が軸になります。支払基準が時価か再調達か、契約の保険金額と保険価額の整合はどうか、免責や特約限度はどの水準かを、見積と証憑に基づいて突き合わせます。

事故直後の写真・動画、メーカー所見、気象データや近隣同時被害の情報など、外来性と突発性の立証を意識した資料整備が重要です。更新時の見直しと証憑の保管を習慣化すれば、いざというときの復旧速度と受取額の確実性が高まります。