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フランチャイズ方式(保険の支払方法)

フランチャイズ方式は、損害額が「一定額未満なら不払」「一定額以上なら損害額の全額(限度内)を支払う」という“しきい値”型の保険金支払方法です。免責金額(ディダクタブル)方式と混同されがちですが、支払額のルールが根本的に異なります。

火災保険・共済・企業保険などで用いられることがあり、小口の軽微損害を対象外としつつ、一定規模以上の損害が生じたときには素早く広く救済する設計です。実務では「一事故」単位の判定、支払限度額との関係、見積・領収書の整合がポイントになります。

フランチャイズ方式の基本

要点は「しきい値(フランチャイズ額)」を境に、そこを超えたら損害額の全額が支払対象(限度内)になることです。

定義としくみ

フランチャイズ方式では、契約上あらかじめ定めた金額を下回る損害は不払、同額以上の損害は損害額の全額(保険金額や支払限度額の範囲内)を支払います。境界線となる金額は約款等で規定され、契約者側で自由に変更できないのが通常です。

「一事故」単位の考え方

適用は多くの場合「一事故」単位です。例えば同じ台風で同一建物の屋根と窓が同時に損傷した場合は、通常ひとつの事故として合算評価されます。他方、別の日に別原因で損傷した場合は事故が分かれ、各々で判定されます。

支払限度額・保険金額との関係

フランチャイズ額を超えれば「全額支払」といっても、支払上限は保険金額や特約の限度額に拘束されます。大口損害では、しきい値よりも上限管理のほうが重要になる点に注意します。

この方式は、少額請求の事務コストを抑制しながら、一定規模以上の事故に対しては迅速に資金手当てを行うという設計思想に合致します。軽微損は自己負担になりやすい一方、境界を超えれば実損額ベースでしっかり支援が受けられます。

免責金額(ディダクタブル)方式との違い

ディダクタブルは「超えた部分だけ支払」、フランチャイズは「超えたら全額支払(限度内)」という構造の差が核心です。

構造の違いをひとことで

ディダクタブルは常に一定額が自己負担として差し引かれます。
他方フランチャイズは、境界を超えない限り全額不払ですが、超えた瞬間に自己負担が消え、実損額(限度内)の支払対象に切り替わります。
ここを取り違えると、期待支払額の見積りを誤ります。

数値でみる比較

境界(または免責)10万円、損害額15万円を想定。ディダクタブルなら支払は5万円(15万−10万)。
フランチャイズなら支払は15万円(限度内)となります。
逆に損害額9万円なら、ディダクタブルは0円、フランチャイズも0円です。

採用場面の違い

ディダクタブルは広く一般的ですが、フランチャイズは海上保険や企業の財物保険、制度型共済等で用いられることがあります。軽微損の事務負担を省き、一定規模以上の損害に資源を集中したいときに適します。

「少しの損害なら自己負担でよいが、一定以上は満額で迅速にカバーしたい」場合には、フランチャイズの思想がフィットします。契約目的(費用対効果、キャッシュフロー耐性)から逆算して方式を選びましょう。

火災保険・共済での登場シーン

軽微損の排除と手続き簡略化のために、フランチャイズが採用される設計が存在します(商品・団体制度・約款に依存)。

小口損害の取り扱い

例えば、1〜2万円規模の修理を大量に処理するコストは無視できません。所定額を下回る損害を対象外とすることで、保険料を抑えつつ、一定規模以上に厚く資金を回す狙いがあります。制度型共済でも似た考え方が見られます。

団体・法人契約での使い分け

事業者の保険では、ディダクタブルとフランチャイズを用途別に使い分けることがあります。設備の小さな擦過・破損を自己負担にしつつ、風災や水災など一定以上の被害は一気に補填、といった設計が典型です。

約款・特約の確認ポイント

適用範囲(どの損害に適用されるか)、境界金額、一事故の定義、支払限度額との関係、他特約との優先関係を確認しましょう。契約更新や商品改定で条件が変わることもあるため、最新版の約款を参照することが重要です。

火災保険の申請サポート実務では、まず損害の全体像を把握し、同一事故にまとめられる範囲を適切に画定することが成功の鍵です。合算により境界を超えれば、支払対象となる可能性が開けます。

メリット・デメリットと向いているケース

「境界を超えたら満額」という安心感と引き換えに、軽微損は切り捨てになる点を理解して選びます。

メリット(保険料効率・迅速性)

小口請求を抑制する設計のため、同条件で比較した場合に保険料効率がよくなる場合があります。境界を上回れば満額(限度内)での支払いが想定され、復旧資金の確保が読みやすいのも利点です。

デメリット(軽微損の自己負担化)

境界未満の損害は全額自己負担となります。軽微損が頻発する設備・業態では、合算不可のために結果的に負担が増えることも。境界金額の水準が自社・自宅の実態と合っているかが重要です。

向いている契約者像

「細かな修繕は自費対応できるが、一定以上の事故には強く備えたい」方に親和的です。逆に、細かな破損・故障の蓄積が経営を圧迫しやすい現場では、ディダクタブル方式や別特約のほうが合うこともあります。

方式選択は保険料だけでなく、現場の損害発生プロファイル、キャッシュフロー耐性、復旧スピードの要件を踏まえて総合判断しましょう。

請求の実務と注意点

事故の画定、証拠の一元化、見積の線引きを丁寧に。境界超えの立証が勝負どころです。

事故のまとめ方(合算の可否)

同一原因・同一時期・同一対象であれば一事故として取り扱える可能性が高く、合算で境界を超えられることがあります。日時・天候・被害部位を写真・報告書で紐づけ、分断されないよう記録を整えます。

証拠書類と見積の作り方

被害前後の写真、被害範囲の特定図、修理見積・内訳、原因の所見メモをセットで準備します。軽微損と偶発的な経年劣化の切り分けを明確にし、境界超えを合理的に示すことが重要です。

よくあるミスと対策

小さな損害をバラバラに申請して境界未満で不払になる、原因の異なる損害を無理に合算して差し戻される、などが典型です。申請前に事故区分を整理し、必要なら専門家の助言を仰ぎましょう。

フランチャイズ方式は「境界を超えるか否か」の線引きが生命線です。手続の初動で情報を集約し、境界超えが見込める形で資料を整えると、審査がスムーズになります。

数値シミュレーション(イメージ)

境界10万円の場合の代表パターンを把握すると、方式選択と資金計画が一気に楽になります。

ケースA:15万円の損害(同一事故)

フランチャイズは支払対象15万円(限度内)。ディダクタブルは支払5万円(15万−10万)。この差は復旧初期の自己資金負担に直結します。

ケースB:8万円+4万円(同一原因で同日)

合算12万円で境界超え。フランチャイズでは12万円(限度内)が支払対象となる可能性が出ます。分断申請せず、最初から一括で整理するのがコツです。

ケースC:別日・別原因で9万円と7万円

事故が二つに分かれ、いずれも境界未満または一方のみ超過という扱いになりがちです。起案時に「一事故」の考え方を踏まえた整理が不可欠です。

あくまで一般的なイメージであり、実際の認定は約款・特約・調査結果に依存します。適用可否は最新の条件を確認してください。

フランチャイズ方式についてのまとめ

フランチャイズ方式は、軽微損を切り捨てつつ、一定以上の損害を手厚くカバーする設計です。ディダクタブルとの違いを理解し、現場の損害プロファイルに合わせて選択しましょう。

契約時は「境界金額」「一事故の定義」「支払限度額」「適用対象の範囲」「他特約との優先関係」を重点チェック。申請時は事故を適切に画定し、合算可否を踏まえて資料を整えることで、境界超えの立証がしやすくなります。