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併用住宅

「併用住宅」とは、同一建物内に〈居住用〉と〈事業用〉の空間が共存する住宅形態を指します。店舗・事務所・作業場など収益活動の場と自宅が一体化しているケースが典型です。

新築時から店舗併用として設計された建物だけでなく、住居の一部を改装して事務所や店舗スペースを設けた場合も「併用住宅」に該当します。火気使用・来客の出入り・電気設備の負荷など事業特有のリスクが加わるため、専用住宅より保険料が高くなる傾向にあります(用途や業態により割増の度合いが変動)。

併用住宅の定義と範囲

居住+事業の同居がポイント。面積・用途の実態が判断材料

構成の基本

1階が店舗または事務所、2階以上が自宅/自宅の一部を事務所として使用/ガレージ併設で軽整備を行う、などの形態が代表例です。動線分離や消防設備の要否は建築・用途規制にも関わります。

用途割合の考え方

面積・時間利用などの実態で住居/事業の占有割合を把握します。保険実務では「住居が主体でも事業用途が存在する」事実が重要で、用途変更や業態追加があれば速やかな申告が必要です。

代表的なレイアウト例

1階:理容店/2階:自宅、1〜2階:飲食店/3階:自宅、自宅+小規模オフィス(来客あり/なし)など。業態によって火気・油煙・溶剤・在庫などの危険度が異なります。

火災保険上の取り扱い(建物・家財・設備)

住居部分と事業部分で「対象」「評価」「限度」の考え方が変わる

建物(共通の外装・構造・設備)

屋根・外壁・基礎・柱梁・内装・電気設備・給排水など共通部分は原則として建物補償の対象です。ただし、用途が併存するため、料率は専用住宅より割増となることが一般的です(飲食・美容・整骨など火気・薬剤・来客頻度の高い業態ほど高リスク)。

家財(居住用動産)と業務用動産の区別

居住用の家電・家具・衣類等は「家財」契約でカバーします。一方、業務用の什器・機械・在庫・商品・現金等は、通常の家財契約では対象外または限度が極めて小さいため、別途「店舗用動産」や事業用保険の手当が必要です。

賃貸か自営かでの違い

自営(自宅+自店舗)の場合は建物・家財・業務用動産の切り分け設計が肝要です。賃貸併用(1階テナント+上階自宅)では、建物オーナーの建物契約、テナント側の動産・利益補償、居住者の家財契約を役割分担します。

保険料が高くなる主な理由

業態固有の危険度+人の出入り+設備負荷がリスクを押し上げる

火気・熱源・油煙の使用

飲食・パン菓子製造・整備・理美容の加熱器具などは出火・延焼リスクが上がります。ダクト・フィルタ清掃の頻度、消火器・感知器の管理が評価ポイントです。

来客・開店時間・現金取扱い

営業時間の長さ、夜間営業、来客密度、現金・在庫の保管は盗難・破損リスクに直結します。シャッター・防犯カメラ・金庫の有無で抑止効果が変わります。

設備負荷・改装の影響

厨房設備・給排気・200V電源・給排水増設などは事故時の被害額を拡大させがちです。改装・用途変更を保険会社に申告しないと、支払時に不利益となる可能性があります。

契約設計のポイント(建物・家財・特約)

「対象の切り分け」「金額設定」「費用補償」で取りこぼしゼロへ

保険金額の設定と評価基準

建物は再調達価額(新価)を基準に、内装・設備の増設分を含めて見積もります。家財は居住用のみ対象にし、業務用は別契約で担保します。過少保険は比例てん補のリスクがあるため注意が必要です。

費用保険金・臨時費用の活用

残存物取片付け費用、臨時費用、修理期間中の仮住まい・仮設費用など、費用系の保険金は実務で強力な後ろ盾になります。上限額と支払要件を証券で確認しましょう。

賃貸・借家人賠償・施設賠償の整理

賃貸で事業を営む場合、借家人賠償責任(原状回復)と施設賠償責任(来客への第三者賠償)を検討します。建物オーナーの契約とテナントの契約の境界を明確にしましょう。

請求・査定での実務ポイント

「住居被害」と「事業被害」を分けて証拠化し、算定根拠を明確に

証拠の撮り方と見積の作り方

全景→中景→近接の順で被害部位を写真化。住居・事業の区画ごとに見積(数量・単価・工種)を分けると査定がスムーズです。足場・養生・廃材処分など付帯作業も漏れなく計上します。

原因の立証と対象外の線引き

風災・水災・落雷・盗難など事故種別の立証が重要です。経年劣化・施工不良は対象外になりやすいため、気象データや近隣被害、破損の新旧判定を合わせて整理します。

事業継続の費用・休業の扱い

一般的な火災保険では「休業損失」そのものは対象外です。事業の規模によっては、別途の休業補償(利益補償)や機械の故障リスクへの備えを検討しましょう。

よくある落とし穴と回避策

用途変更・業態追加・改装は「必ず申告」。対象物の切り分けを徹底

用途変更の未申告

自宅の一室をサロンに改装、ガレージで作業を開始、物販在庫の保管開始など、用途変更・業態追加は必ず保険会社へ申告します。未申告は支払削減・解除リスクに直結します。

業務用財物の思い違い

「家財」で業務用の什器・商品までカバーできると誤解しがちです。動産の区分と上限、対象外(現金・有価証券等)を事前に確認しましょう。

賃貸の原状回復・第三者賠償

漏水・火災・爆発で建物オーナーに与えた損害は借家人賠償の対象、来客の転倒・火傷などは施設賠償責任の対象領域です。各契約の役割分担を明確にしておきます。

併用住宅についてのまとめ

併用住宅は「住居+事業」の二層リスク。対象の切り分けと用途申告が最重要です。

建物は新価で適正化し、居住用家財と業務用動産は分けて設計。費用保険金・借家人賠償・施設賠償などの周辺補償も検討し、改装・業態追加・用途変更は必ず申告します。事故時は住居と事業を分けて証拠化・見積化することで、査定を円滑に進められます。

理容店+自宅、飲食店+自宅、事務所+自宅など、形態に応じて危険度と必要補償が変化します。専用住宅と同じ感覚で加入せず、実態に即した「併用住宅」設計で取りこぼしを防ぎましょう。