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耐火時間

耐火時間とは、建築物の主要構造部が火災に曝されても所定の時間、所要の性能(崩れない・熱や炎を通しにくい等)を維持できるかを示す基準で、3時間・2時間・1時間・30分といった区分で規定されます。

この基準は「隣接火災」や「内部火災」のような代表的シナリオに耐え、軽微な補修で再使用できる性能を目安に設計・評価されます。対象は柱・梁・床・壁・屋根・階段といった主要構造部。新築・増改築に際しては建築確認申請で用いる図書や認定情報により、使用材料・構法・部位ごとに要求耐火時間の適合可否を確認できます。

耐火時間の基準と区分

耐火時間は、代表的に「3時間・2時間・1時間・30分」の区分で示され、部位・階数・建物用途に応じて必要水準が決まります。

上階ほど避難・消火活動が難しくなるため、最上階からの階数や区画条件で要求性能が変わります。例えば病院・学校・商業施設など不特定多数が利用する建物では、避難安全性を確保するため厳格な区分が求められることがあります。耐火建築物・準耐火建築物など建物種別の違いは、要求される耐火時間や部位ごとの仕様に反映され、計画の早い段階で該当区分を見誤らないことが重要です。

主要構造部と対象部位

対象となる主要構造部は、柱・梁・床・壁・屋根・階段などで、各部位に求められる性能は「耐火(構造が保てる)」「遮炎(炎を通さない)」「遮熱(危険な高温を伝えない)」といった観点から評価されます。

例えば柱・梁は荷重を支持し続けることが最優先となる一方、区画壁・床は隣室・上下階への延焼拡大を防ぐ遮炎・遮熱が重視されます。屋根や庇は外部からの火の粉や隣接火災に対する抵抗が論点になり、階段は避難動線として温度上昇や煙侵入の抑制が重要です。部位の役割に応じて、鉄筋コンクリート・耐火被覆鋼材・耐火間仕切り・耐火サッシ等を組み合わせ、必要耐火時間を満たす仕様を選定します。

確認申請と認定番号の確認ポイント

建築確認申請では、使用材料や構法がどの耐火時間に適合するかを、耐火・防火の認定番号や仕様書・納まり図で確認します。

実務では
①設計図書の「仕上表・仕様書・構造詳細」を突き合わせ、認定仕様と一致しているか
②部位ごとの要求耐火時間(例:区画壁1時間、主要梁2時間など)に過不足がないか
③貫通部(配管・配線スリーブ)、開口部(扉・サッシ)の防火納まりが認定・同等以上になっているか
④材料の認定番号・カタログ・施工要領の最新版であるか
を丁寧に確認します。工事中の設計変更や代替品の採用時は、要求性能を満たす証憑(認定書・試験成績・性能適合の確認資料)を必ず残すことが肝要です。

設計・改修で耐火時間を確保する方法

新築・改修ともに「仕様の選択」「厚み・密度等の定量条件」「ディテール(取り合い・貫通部)の納まり」が耐火時間を左右します。

鋼材は被覆厚不足や欠損で急激に強度低下を招くため、吹付け・巻付けの厚み管理や欠陥補修が重要です。区画壁・床は、せっこうボード・ALC・耐火パネル等の組合せや目地処理、防火パテ処理により遮炎・遮熱性能を実現します。階段室や避難通路は扉の閉鎖性と自己閉鎖機構、隙間処理、ガスケットの劣化対策まで配慮が必要です。性能設計を採る場合は、標準火災曲線や評価条件の妥当性、実建物の負荷状態との整合を検討し、保全段階では点検計画(被覆の剥離・破損・配線増設による貫通処理の劣化など)を定期的に見直します。

火災保険との関係と実務上のメリット

耐火性能の高い建物は一般に火災リスクが低く、保険料水準が抑えられる傾向があります。構造区分・耐火等級・使用材料の情報は見積・申請時の根拠資料になります。

保険会社は建物の構造種別や外壁・屋根の材質、主要構造部の耐火時間、開口部の防火仕様、消防設備の有無、立地(消防署までの距離・周辺火災統計)等を総合的に評価します。耐火建築物・準耐火建築物といった区分に適合し、かつ証憑が整っていると、見積取得や保険金請求時の説明がスムーズになります。更新時には増改築・用途変更・テナント工事で耐火区画や認定仕様が変化していないかもチェックし、必要に応じて保険条件を見直すと実態に合った補償を確保できます。

よくある誤解と注意点

耐火時間は「燃えない魔法の時間」ではなく、所定の試験条件下で構造・区画の機能を保持できる目安です。実火災の性状は建物ごとに異なります。

同じ1時間の区分でも、荷重条件・支持条件・ディテール差により余裕度は変わります。内装制限や避難計画、初期消火・警報設備が不十分であれば、区画を超える煙・熱の拡大リスクが残ります。加えて、二次的要因(貫通部の増設、ガスケット劣化、被覆の剥離、開口部の常時開放など)が性能低下を招くことがあります。定期点検で劣化・改変を把握し、記録を残すことが耐火時間の実効性と保険上の説明可能性を高めます。

耐火時間についてまとめ

耐火時間は、避難安全・延焼防止・事業継続の要となる設計パラメータです。部位・用途・階数に応じた区分を正しく理解し、認定仕様とディテールで確実に担保しましょう。

建築確認申請時の要求水準から、材料の認定番号・図書・納まり・保全計画までを一貫管理することで、性能の取りこぼしを防げます。耐火性能の高さは火災保険のリスク評価にも好影響を与えやすく、証憑の整備は見積・請求の両面で武器になります。改修やテナント工事のたびに区画・被覆・開口の状態を点検し、運用で性能を維持する姿勢が、いざという時の安全と復旧力を大きく左右します。