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T構造

T構造とは、火に強い建築構造(耐火または準耐火相当)として評価される建物区分の通称で、火災時に延焼しにくく、構造体が一定時間持ちこたえる性能を備えたものを指します。

火災保険では、建物の燃えにくさ(耐火性)によって保険料が変わります。コンクリート造(RC)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)、耐火被覆を施した鉄骨造(S)、耐火・準耐火に適合する木造など、構造・仕様が耐火性の基準に合致するほど、火災時の損害期待値が低いと判断され、保険料が軽減されやすくなります。T構造は、そうした「火に強い設計思想と仕様」を満たす建物の総称イメージとして使われることがあり、保険加入・見直しの現場でも理解しておく価値が高い概念です。

T構造の基本と評価の考え方

耐火・準耐火の考え方、主要構造部の保護、延焼遅延の確保という三つの軸でとらえると全体像が掴みやすくなります。

● 主要構造部の耐火性能

柱・梁・床・壁といった主要構造部が、規定された時間(例:45分、60分、1時間以上など)火熱に耐えることが前提です。RCやSRCは材料自体が耐火的で、鉄骨造は耐火被覆や耐火塗料で熱から鋼材を守る設計を採ります。

● 区画と延焼遅延の仕組み

外壁の防火性能、開口部の防火設備、天井・壁の下地材などが一定の遮炎・遮熱性能を満たすことで、延焼を遅らせ、避難時間を確保します。建物内の火の広がりと隣地への類焼を抑える思想が要点です。

● 保険上の評価との関係

耐火性が高い構造は、火災時の損害額が低くなりやすいため、保険料算定で有利に働く傾向があります。保険会社は構造区分や各種割引の判定に、建築確認図書・仕様書・検査済証などの証拠を求めるのが一般的です。

木造でもT構造に近づける方法(省令準耐火を中心に)

木造は燃えやすいというイメージがありますが、仕様と工法を整えれば準耐火水準を満たし、保険上も有利な評価につながります。

● 2×4(ツーバイフォー)工法

面構造により火の通り道を限定し、石膏ボードなどの不燃材で室内側を覆うことで、部材温度の上昇を抑えます。省令準耐火仕様に適合させる設計と施工で、耐火・延焼遅延の性能を実現しやすいのが特徴です。

● 在来軸組でも可能な対策

外壁・天井の石膏ボードの厚さ・重ね張り、断熱材の連続性、配線・配管の貫通部の防火措置、枠廻りの気密・遮炎ディテールなどを積み重ねることで、準耐火仕様に近づけられます。仕様の統一と施工管理が肝心です。

● 設計・施工・検査の一体運用

要求性能を図面に反映し、工事写真と検査記録で裏付けることで、後日の保険手続や売買時の説明も透明になります。改修時は開口部や天井裏の仕様が崩れやすいため、復旧時の同等性能確保を徹底します。

コンクリート・鉄骨系のT構造の考え方

材料そのものの耐火性、鋼材の保護、仕上げとの整合を押さえると、耐火設計の勘所が見えてきます。

● RC/SRCの耐火性

コンクリートは高温でも急激に強度を失いにくく、鉄筋の被り厚を適正に確保すれば、長時間の遮熱・遮炎が可能です。仕上げとの取り合いで開口・打継ぎ部の耐火ディテールを確認します。

● 耐火被覆鉄骨造(S)

鋼材は高温で急速に強度が低下するため、ロックウール吹付、けい酸カルシウム板、耐火モルタル、膨張発泡型耐火塗料などで被覆します。厚さと連続性、貫通部の処理が性能の決定要素です。意匠性重視の露出鋼材には耐火塗料の運用が有効です。

● 外壁・開口部の仕様

外壁材の防火性能と、窓・出入口の防火設備の等級が延焼性能を左右します。遮炎・遮煙・遮熱の観点から、ガラス種、サッシ、シャッターの仕様を整理し、隣地境界との離隔も含めて計画します。

都市計画と法規の枠組み(防火地域・準防火地域)

地域ごとの防火規制は、居住者の生命・財産保護と延焼拡大の防止を目的に設けられています。設計時に早い段階で適用条項を確認しましょう。

● 防火地域の原則

多くの中高層や高度利用地区では、ほぼ全ての建築物に耐火構造が求められます。複合用途では各用途の要件を満たす必要があるため、初期計画で仕様・コスト・工期の見通しを立てます。

● 準防火地域の考え方

小規模な低層建築物等を除き、準耐火構造・防火設備の設置が求められるケースが中心です。2階建て以下でも延床面積や用途によって要件が変わるため、行政協議で最新の運用を確認します。

● 設計・申請と証拠化

建築確認申請書・計算書・納まり詳細・検査済証を揃え、耐火・準耐火の根拠を明確にしておくと、保険加入や売買・融資の審査での説明が容易になります。改修や用途変更の際も同等性能を担保します。

保険実務:T構造と保険料の関係・必要書類

火に強い仕様は「損害額が小さい=料率が下がる」方向に作用します。割引の可否は、根拠資料の整備が鍵です。

● 料率と割引の見え方

耐火区分に応じて基本料率が異なり、準耐火相当の仕様でも割引が適用されることがあります。免責金額や防災設備の有無、長期契約の係数など、総合条件で最終保険料が決まります。

● 提示すると良い資料

建築確認申請図・構造図・仕様書・納まり詳細、外壁・開口部の防火等級、鉄骨被覆の厚さ測定記録、工事写真、完成図書など。木造では内装下地・貫通部処理の仕様書も重要です。

● 乗換・更新の注意点

仕様が不明瞭だと割引が適用できない場合があります。書類が不足しているときは、施工会社や設計事務所に協力を求めて、仕様確認書や写真の再取得を行うのが近道です。改修後は必ず記録を残しましょう。

維持管理・リフォーム時に性能を落とさないコツ

竣工時に満たした性能は、維持管理・改修で簡単に失われます。変更多発箇所を押さえて守り切りましょう。

● 開口部と貫通部の処理

サッシ交換や配管・ケーブルの増設で、耐火区画が崩れる事例が多く見られます。防火設備の同等性能を満たす製品選定と、貫通部の防火措置を徹底します。

● 天井裏・壁内の仕様維持

ボードの欠損、断熱の欠落、スリーブ周りの未処理は温度上昇を早めます。点検口を活用し、改修後の写真と仕様書で性能の連続性を証拠化します。

● 鉄骨被覆の剥離・薄肉化

荷捌きや設備更新時の衝撃で被覆が欠けることがあります。定期点検と早期補修、必要に応じた膜厚計測を行い、所要厚さを回復させます。塗膜系は再塗装計画を立てます。

T構造についてまとめ

T構造は「火に強い設計・仕様」を実現した建物の総体像です。構造材料・区画・開口部・被覆の四点が揃えば、火災時の安全性と保険上のメリットを両立できます。

RC/SRCや耐火被覆鉄骨造はもちろん、木造でも2×4や在来の工夫で準耐火水準に近づけられます。計画段階で地域の防火規制を把握し、要求性能を図面・仕様に落とし込み、施工と検査で裏付けることが重要です。保険では、耐火区分と根拠資料の整備が保険料の軽減や割引適用の鍵になります。改修・維持管理でも性能の連続性を守り、生活の安全と資産価値、そして保険コストの最適化を実現しましょう。