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電気的または機械的事故

電気的または機械的事故とは、過電流・短絡・アーク・地絡など電気的な異常、あるいは回転体や駆動部の折損・曲損・噛み込み・焼付きなど機械的な異常によって、建物設備が突発かつ偶然に損傷する事故を指す。火災保険では契約条件により補償の可否・範囲が異なるが、一般に落雷以外の内部要因で生じる設備損傷を念頭に設計される特約群である。

対象は建物側の固定設備(受変電設備、配電盤、分電盤、動力回路、空調機、ボイラー、ポンプ、エレベーター機器、シャッター機構など)が中心となる。経年劣化や摩耗、腐食、設計施工不良など徐々に進行する原因は原則として補償の対象外であり、突発かつ偶然の事故であること、かつ事故と損害の因果が明確であることが要件になる。

事故区分と基礎知識

電気的と機械的を分けて理解し、内部要因と外部要因の線引きを押さえる

電気的事故の典型

短絡(ショート)・過電流・過電圧・アーク放電・絶縁破壊・巻線焼損など。トランス、インバータ、コンプレッサーのモータコイル、基板上のICやコンデンサ破裂、SPDの動作限界超過などが代表例である。雷サージが直接原因のときは落雷条項が適用される場合もあるため切り分けが重要。

機械的事故の典型

回転体のベアリング焼付き、シャフトの曲損・折損、ギア欠損、羽根車の破断、ピストン固着、チェーン・ベルトの急激な破断、昇降機の駆動系損傷など。突発性と外力の有無、保全履歴との関係を明確化すると査定が早い。

内部要因と外部要因の切り分け

内部要因は設備内部の短絡・破断等、外部要因は水濡れ・衝突・地震・落雷・風水害など。契約上、外部要因は別の条項でカバーされることが多く、内部要因は電気的または機械的事故の特約で補う設計が一般的である。

対象となりやすい建物設備

固定設備中心。家財やテナント所有の可動財は対象外になりやすい

受変電・配電設備

キュービクル、トランス、遮断器、母線、コンデンサ盤、分電盤。アーク、絶縁低下、過電流トリップ後の焼損など。

空調・給排水・搬送設備

パッケージエアコン、チラー、ボイラ、ポンプ、エレベーター・エスカレーター、シャッター。モータ焼損、逆相運転、機械的噛み込み等。

制御・電源・非常用設備

制御盤、PLC、インバータ、非常用発電機、自動火災報知設備の電源部。基板ショート、DC電源の過電圧障害など。

建物内の据付一体の設備が中心で、持ち運び可能なOA機器・什器・商品は家財や動産の区分に属することが多い。保険証券で目的物の範囲を必ず確認する。

支払い要件と判断のポイント

突発性・偶然性・因果関係・対象物の適合性を四本柱で確認する

突発性と偶然性の立証

定常運転中に突然停止、異音直後の焼損、遮断器動作直後の焼け痕など、時間的な急性の説明が必要。長期の性能劣化は除外されやすい。

因果関係の明確化

過電流→巻線焼損→コンプレッサ交換、噛み込み→モータ過負荷→熱損傷のように、原因から損害・復旧まで一連の論理を示すと妥当性が伝わる。

対象物の適合性・除外条件

建物の固定設備が対象。消耗品・付属品単体や保守不良起因、設計施工不良、自然消耗、摩耗、腐食、サビ、スケール、キャビテーション等は除外されやすい。各社約款の除外条項を事前に確認する。

必要書類と立証の実務

写真・測定・見積・履歴の四点セットで迅速化する

損傷状況の記録と計測値

焼損部の近接写真、配線の被覆焦げ、遮断器のトリップ痕、絶縁抵抗値、巻線抵抗、サーモ画像、振動・電流波形等。計測値と外観の両面で示すと強い。

見積と復旧仕様の同等性

数量・単価・工法・部材品番・耐圧/容量等級・被覆厚を明記。代替品採用時は機能同等の理由を記す。運搬・仮設・試運転費も工程内訳へ。

点検・保守履歴と警報ログ

定期点検記録、油脂交換履歴、アラーム履歴、トリップ日時、停電履歴。直前の警報や異常傾向の有無は因果判断に影響する。

対象外・免責になりやすいケース

徐々に進む劣化や不適切運用は原則除外。外部要因との区別も重要

経年・摩耗・腐食・疲労破壊の進行

長期の摩耗や腐食が主因の折損、スケール堆積によるキャビテーション、冷媒漏れ長期放置による圧縮機損傷などは対象外になりやすい。

設計・施工不良、仕様逸脱、過負荷運転

容量不足、保護継電器の不適正設定、端子締付不足、保護デバイスの故障放置、連続過負荷などは免責の対象になりやすい。

家財・商品・可動財への被害

建物に付帯しない動産は別区分。可搬OA機器やテナント所有機器は契約外の可能性があるため、事前に区分と特約の有無を確かめる。

復旧の流れと見積のコツ

原状回復を基本に、安全と再発防止を両立させる工程設計を行う

工程の基本シーケンス

① 原状保存と安全確保
② 損傷部位の切り分け(電気試験・分解点検)
➂ 復旧方針の選定(修理・部品交換・ユニット交換)
④ 見積作成と必要書類の整備
⑤ 承認後の施工・試運転・是正

費用項目の漏れ防止

仮設電源、仮空調、夜間休日対応、搬入出、養生、足場、試験成績、第三者検査などを内訳に反映。代替運転の必要費も検討する。

同等性能の証明

型式廃番時は後継機の仕様比較表を添付し、能力・効率・保護等級が同等以上であることを提示。意匠や配管配線の変更が必要な場合は範囲を明確化する。

予防とリスク低減策

保全は測る・守る・替えるの三本柱。データで劣化を前倒し把握する

測る(状態監視と基準値の整備)

絶縁抵抗・温度・振動・電流波形・油性状などの定点観測。基準値とトレンドを持ち、異常兆候の可視化で突発停止を減らす。

守る(保護と環境整備)

SPDの適正配置、保護継電器の設定見直し、盤内の粉塵・結露対策、冷却・通風の確保、ケーブル端末の防水処理など。

替える(予防交換と更新計画)

エンドオブライフの部品・オイル・消耗品は計画的に交換。基板系は製造中止前に後継機へ更改し、突発故障時の長期停止を防ぐ。

よくある誤解と注意点

内部要因のすべてが補償されるわけではない。契約目的と条項の読み合わせが必須

落雷以外の扱い

雷サージ由来は落雷条項で、内部短絡は電気的事故条項で、と条項が分かれることがある。現場の痕跡と時系列で切り分ける。

家財の扱い

家財や商品は建物の電気的・機械的事故の対象外になりやすい。必要であれば動産や機械保険で補う設計を行う。

修理で性能が向上する部分はグレードアップと判断されることがあり、超過分は支払対象外になり得る。原状回復を基本に見積・仕様を設計する。

電気的または機械的事故についてまとめ

突発的な内部要因の損傷を対象に、建物の固定設備を中心に補償が設計される

本条項は、過電流や短絡、回転体の折損など、電気的・機械的な内部要因で建物設備が突発的に損傷したケースを想定している。支払いには突発性・偶然性・因果の立証と、対象物の適合性が鍵となる。現場写真・計測値・見積・保守履歴をそろえ、原状回復の同等仕様で復旧することが審査を速める近道である。日常の保全では、測る・守る・替えるの運用で故障の未然防止と停止時間の短縮を図る。家財や長期劣化は対象外になりやすい点を踏まえ、必要に応じて他の条項や保険で補完するのが合理的である。