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耐火建築物

耐火建築物とは、建築基準法第2条第九号の二に定められた、主要構造部が一定時間の加熱に耐え、延焼防止性と非損傷性を備えた建築物をいう。火災時に避難・初期消火・延焼遮断の時間的余裕を確保できることが要件で、火災保険でも構造区分の根拠となる重要概念である。

主要構造部とは、柱・梁・床・壁・屋根・階段など建物の安全性に影響する部分を指す。耐火の認定は仕様規定(厚さや構成)または性能規定(加熱試験による耐火時間)で満たす。なお、耐火建築物の定義は「火」に対する性能であり、耐震性能は構造設計基準で別途求められる点を区別して理解することが大切である。

法的定義と技術基準の要点

性能規定化以降は「時間で担保」する仕組み。仕様適合か試験成績かで立証する

法令上の位置づけ

耐火建築物は、建築物の用途・規模・周辺環境に応じて義務づけられることがある。防火地域・特定用途・大規模建築などでは、主要構造部に所定の耐火性能が必要となる。確認申請では図書・仕様書・試験成績などで適合を示す。

主要構造部と要求性能

要求性能は、耐火被覆や厚肉部材、耐火認定材料の採用で満たす。柱・梁は耐力保持、床・壁は遮炎・遮熱の基準があり、火災時にも構造の崩壊や隣室延焼を一定時間防ぐことが求められる。

時間区分と認定材料

耐火時間は用途・規模に応じて(例)1時間・2時間等が設定され、被覆厚・板材構成・下地の仕様で達成する。国の認定(個別認定・大臣認定)や評価機関の成績で立証する運用が一般的である。

耐震については、建物の構造計算・耐震等級など別体系の基準で検証する。つまり「耐火=地震に強い」ではない。両者は設計段階で同時に満たすべき要件である。

耐火建築物と準耐火建築物の違い

双方とも延焼抑制を目的とするが、要求時間・仕様の厳格さに差がある

要求性能の強度

耐火は主要構造部により高い耐火時間を求め、準耐火は一定の準耐火時間を満たせばよい。結果として部材厚みや被覆仕様に差が出やすい。

適用されやすい建物規模・地域

防火地域や大規模・集客施設では耐火が求められやすく、準防火地域・小規模建築で準耐火が選択されることが多い。用途変更時は要件が変わる可能性に注意する。

工期・コスト・更新性

耐火仕様はコストが上がりがちだが、保険料率や長期運用での事故抑止効果を含めたライフサイクルコストで評価する。メンテナンスや更新時の仕様維持も計画に織り込む。

準耐火建築物は「耐火の下位」というより「用途・規模に即した合理解」であり、必要性能を満たせば安全性に遜色はない。適用判断は立地・規模・用途・避難動線で総合的に行う。

火災保険における構造区分と影響

耐火性の高い構造は、保険料率や特約適用、支払実務に有利に働くことがある

構造級別と保険料率

保険では一般に、耐火性能や材料種別(鉄筋コンクリート造・耐火被覆鉄骨造・耐火認定木造など)に応じてリスク評価を行う。延焼しにくさ・被害拡大の抑制が見込める構造は、料率上の優位が生じやすい。

支払実務での差異

耐火建築物は部位交換で原状回復できる場面が多く、全損認定に至りにくい。一方で被覆や内装の「復旧仕様」が争点化しやすく、試験成績・カタログ・施工写真で仕様同等性を示すことが重要である。

割引・付帯補償との関係

耐火性能だけでなく、防犯・防災設備(オートロック、警報、スプリンクラー等)や維持管理状況に応じて、条件や特約が変わることがある。長期修繕計画と合わせて保険設計を見直すと良い。

構造区分の誤認は、契約後に差額清算や不利益を生む。確認申請図書・仕様書・竣工図・認定番号を保管し、更新時に整合性を再点検する運用が肝心である。

設計・維持管理でのチェックポイント

施工中・改修時の「仕様維持」と「記録」が後日の証拠能力を左右する

改修・用途変更時の注意

テナント入替や内装改修で、耐火仕様を損なう施工(貫通部の不適切処理、被覆欠損、非認定材への置換)を避ける。貫通部は耐火区画の生命線であり、認定部材での納まりを徹底する。

図書・認定番号の保全

竣工図・施工写真・製品カタログ・大臣認定番号・試験成績を整理し、クラウドに保存。事故時や売買・賃貸・保険更新で即時提示できる体制にする。

点検・小修繕の継続

被覆剥離・錆・ひび割れ・区画の欠損は早期補修。設備火災を防ぐため受変電・分電盤・機械室の清掃と点検を定期化し、火災予防をハード・ソフト両面から進める。

保険の観点でも
①構造区分の整合
②更新時の評価額見直し
➂工事計画時の事前相談
④証憑の保存
⑤事故時の復旧仕様確認
をルーチン化することで、支払減額や対象外リスクを抑えられる。

よくある誤解と正しい理解

「耐火=地震に強い」ではない。火災性能と耐震性能は別の物差しで評価する

火災と地震の性能は独立

耐火建築物は火災時の構造耐力・遮炎・遮熱の性能で評価される。耐震は層間変形・応力度・保有水平耐力など別枠の計算で担保する。両者を同時に満たして初めて安全性が高まる。

「展示建築」や仮設は原則対象外

外気分断性・定着性・用途性を満たさない展示物・仮設ステージは建物とみなされない。保険・法令の適用範囲も異なるため、恒久使用なら恒久仕様を選ぶ。

一部損で再利用できる前提

耐火といっても無損傷を意味しない。被覆や仕上げの損傷はあり得るが、構造が一定時間保持され避難・延焼防止に資することが要点である。

「準耐火=安全でない」も誤り。要求水準の差であり、適切な用途・避難計画と組み合わせれば十分な安全性を確保できる。

耐火建築物についてまとめ

耐火は「火災時の時間的余裕」を確保する性能。耐震とは別に、仕様維持と証拠保全が実務の鍵

耐火建築物は、主要構造部が一定の耐火時間に耐えることで避難・延焼抑制を実現する。定義と要求性能を正しく理解し、改修や用途変更時にも仕様を崩さない設計・施工・維持管理を徹底する。火災保険の面では、構造区分・評価額・特約の整合を更新時に点検し、事故時は復旧仕様の同等性を証憑で示す。これらをルーチン化すれば、実効的な安全性と保険運用の合理性を同時に高められる。