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損害調査

損害調査とは、事故や災害によって生じた被害の原因・範囲・程度を事実に基づいて確認し、原状回復に必要な合理的費用を確定するための一連の手続きです。

火災保険などの損害保険では、支払可否や金額を公正に判断するため、客観的な記録と検証に基づく調査が不可欠です。初動の連絡、現地確認、証拠の収集、原因の特定、被害の計測・積算、約款適用の確認、認定という流れで進行します。保険会社が直接行う場合もあれば、代理店の写真調査や、外部の鑑定人(アジャスター)・専門業者が参加することもあります。重要なのは、感覚ではなく事実と証憑で整理し、誰が見ても再現性のある形で結論にたどり着くことです。

損害調査の目的と到達点

目的は「原因の特定」「範囲の確定」「費用の妥当化」の三点を、証拠に基づいて明確にすることです。

● 原因の特定

落雷、風災、雪災、破損・汚損、火災、水濡れなど事故類型を切り分け、補償対象かどうかを判断します。経年劣化のみは原則対象外のため、事故による新たな損傷かを見極めます。

● 範囲の確定

被害部位・面積・数量を図面や写真で特定し、健全部との境界を明示します。連続性がある場合は同一原因の一体損害として整理します。

● 費用の妥当化

原状回復に必要な工法と単価を根拠付きで積算し、不要なグレードアップや過剰修繕を除外します。必要に応じて相見積・参考単価を用いて妥当性を担保します。

関与者の役割と責任

保険会社、代理店、鑑定人、専門業者、被保険者それぞれに明確な役割があります。

● 保険会社・損害サービス部門

全体の調整・約款適用の判断・支払認定を行います。必要に応じて外部鑑定を手配し、客観性を高めます。

● 代理店

初動のヒアリングと写真収集、提出書類の案内、日程調整などを担います。小規模被害では写真調査で完結することもあります。

● 鑑定人(アジャスター)・専門業者

原因分析、被害の計測、工法の妥当性検証を行い、報告書と積算根拠を提示します。電気・設備・建築など専門分野ごとの見解を統合します。

● 被保険者(契約者)

安全確保、二次被害の防止(養生・応急処置)、事実経過の記録、見積・領収書の保管、立会い協力などを行います。虚偽や過大請求は厳禁です。

調査の標準フロー

通知から認定までの各段階で、記録と根拠の整合を徹底します。

● 事故通知・初動対応

発生日時、原因の推定、被害範囲、応急処置の内容を整理して連絡します。危険箇所は立入を制限し、拡大防止を優先します。

● 現地調査・証拠収集

全景・中景・近接の順に撮影し、位置関係が分かるよう図面へプロットします。濡れや歪み、煤、変色などの痕跡は時系列で記録します。

● 原因分析・被害計測

外力の方向、侵入経路、影響範囲を推定し、面積・数量・厚みなど測定値に落とし込みます。必要に応じて試験や機器計測を行います。

● 積算・約款適用の整理

原状回復工法の選定、単価根拠、相見積の比較、対象物の除外・包含、特約の上限、免責の扱いを明示します。時価・新価の基準も併記します。

● 認定・支払・記録保存

事実関係と数量根拠に矛盾がないか確認し、認定額を確定します。結果通知と明細は保管し、再発防止やメンテ計画に活用します。異議がある場合は再調査の手順を案内します。

記録と証憑の集め方

「見える化」「時系列」「関係づけ」の三点が品質を決めます。

● 写真・動画・図面の三点セット

広角で全体、被害部位の中距離、損傷の近接と段階的に撮影します。撮影日付を残し、図面や間取りに位置を対応付けます。

● 型番・購入時期・保証書等

家電や設備は銘板写真、型番、購入時期の分かる資料を添付します。修理履歴がある場合は明細も併せて提出します。

● 公的・第三者資料

消防の出動記録、気象データ、停電履歴、近隣の被害状況など、客観資料で因果関係を補強します。漏水では水道検針値や配管圧力試験の結果が有効です。

事故類型別の調査ポイント

類型ごとの痕跡の違いを押さえると、原因の切り分けが早まります。

● 火災・煙害

焼損・焦げ・煤の付着範囲、臭気、配線の溶断、構造材の炭化深さなどを確認します。消火活動による水濡れも別途整理します。

● 風災・飛来物・雪災

風向・飛散経路、瓦や板金の剥離パターン、雪庇の形成位置、軒樋の変形など外力の痕跡を地形・周辺環境と合わせて検証します。

● 水濡れ・水災

浸水高、含水率、流入経路、床下・壁内の含水の残留を測定し、乾燥・防腐措置の必要性を判断します。床上・床下の区分も明確にします。

● 破損・汚損・電気的事故

落下・衝突・短絡・過電流など原因別に外観・内部の診断を行い、交換か修理かの妥当性を判定します。代替部材の可用性も確認します。

使用機器と検査手法

可視化ツールの併用で、見落としを減らし説明責任を強化します。

● サーモグラフィ・含水率計・内視鏡

温度差や湿気の滞留、壁内・天井裏の状況を非破壊で確認します。表面上の軽微な痕跡でも内部損傷を見つけられます。

● ドローン・高所カメラ・レベル測量

屋根や高所の安全な点検、沈下や歪みの把握に有効です。足場不要で初動を早め、追加被害の抑制につながります。

● 電気・配管の各種試験

絶縁抵抗、導通、耐圧、漏水圧力などの試験で、機能の可否と交換範囲を客観化します。数値は報告書へ記載し再現性を担保します。

否認・減額を招きやすいケース

「因果不明」「過剰修繕」「事後改修」「放置による拡大」は要注意です。

● 因果関係が曖昧

事故と損傷の関係が説明できない、別原因の混在があると認定が難航します。時系列・痕跡・第三者資料で補強します。

● 過剰修繕・グレードアップ

意匠変更や高機能化は原則対象外です。入手不能の代替は最廉価同等で評価します。

● 事後の改修と証拠欠落

調査前に撤去・交換すると因果の立証が困難になります。やむを得ず実施する場合は着手前・途中・完了の三段階で記録します。

● 放置による二次被害の拡大

雨漏り放置や通電の継続などは損害の拡大とみなされ、支払対象外となる場合があります。応急措置と養生は迅速に実施します。

被保険者が準備すべきこと

安全確保・記録・書類整備・コミュニケーションの四点を押さえます。

● 安全と二次被害防止

停電・止水・立入禁止、ブルーシートや養生で拡大を抑えます。危険作業は専門業者へ依頼します。

● 記録と証拠の保全

写真・動画・図面、見積・領収書、購入証明、保証書、修理履歴などを整理し、提出時に欠落がないようチェックします。

● 立会いと合意形成

立会い日程の確保、事前質問の準備、指摘事項の議事録化を行い、後日の認識差を防止します。説明は事実ベースで簡潔に行います。

損害調査についてのまとめ

損害調査は、客観記録と再現性のある積算により、公正な支払へ橋渡しするプロセスです。

原因・範囲・費用の三点を証拠で立証し、約款に沿って整理することが鍵です。被保険者は初動の安全確保と記録、証憑の整備、立会いでの適切な説明を徹底し、疑義は再調査や第三者鑑定で解消します。感覚ではなくデータ、主観ではなく根拠で進めることが、迅速な認定と適正な補償につながります。