全国地震動予測地図
全国地震動予測地図は、日本各地が今後どの程度の強い揺れに見舞われうるかを、確率や想定シナリオにもとづいて可視化した地図です。地震保険や耐震化の検討、事業継続計画(BCP)、居住地選択や住宅購入の判断材料として活用できます。
本地図は大きく二系統で構成されます。長期統計を背景にした「確率論的地震動予測」と、特定の断層や海域地震を想定して各地の揺れを計算する「震源断層を特定した地震動予測」です。両者は目的と読み方が異なるため、用途に応じて使い分けることが重要です。
2種類の地図と作成主体
基本は「確率論」と「シナリオ」。長期的な可能性を示すか、特定の地震像を想定して揺れの分布を描くかで、地図の意味合いは変わります。
確率論的地震動予測地図
長期間の地震発生履歴や地震活動の統計、プレート境界や活断層の評価を踏まえ、今後一定期間(例として30年)に特定の強さの揺れ(震度6弱以上など)に遭遇する確率を示すものです。広域の相対比較がしやすく、住居選びや長期的な保険・投資判断、自治体の耐震化優先順位づけなどに有用です。
震源断層を特定した地震動予測地図
特定の活断層帯や海溝型巨大地震など、想定破壊シナリオを設定し、その地震が起きた場合に各地点で想定される揺れの強さを計算して分布図として示します。表示は「工学的基盤の地震動最大速度」「地表の地震動最大速度」「地表の震度」などがあり、地盤の増幅特性や表層地盤条件による違いも確認できます。建物や設備の設計条件、避難ルートや備蓄の検討に直結します。
作成・公開の枠組み
地震調査研究の公的機関や関係省庁、研究機関が作成・更新を重ね、全国を俯瞰できるプラットフォームで公表されています。見方や前提は公開資料に明示されており、想定条件や適用範囲を確認してから使うことが前提です。
指標と見方の基本
注目するのは、期間付き発生確率、震度階級、加速度・速度指標、そして地盤条件の反映度合い。凡例を読み違えないことが肝心です。
期間付き確率(例:30年確率)
ある期間内に、指定した強さ以上の揺れに見舞われる確率を示します。確率が高いほど遭遇可能性は高いものの、期間内に必ず起きることを意味しません。低確率域でも発生はあり得るため、ゼロリスクの解釈は禁物です。
指標:PGA・PGV・震度
PGA(最大加速度)やPGV(最大速度)、震度が用いられます。建物や機器の応答は指標によって感度が異なるため、耐震設計の想定や設備の固有特性に合わせて適切な指標を確認します。震度は生活影響の目安に直結し、PGVは構造・非構造部材の損傷見込み評価に有用です。
工学的基盤と地表の違い
工学的基盤は硬い地盤層を基準にした揺れで、地表は表層地盤の増幅を反映した揺れです。軟弱地盤では地表での揺れが大きく出がちです。住宅の立地や地盤改良、基礎形式、家具固定の要否など、対策の優先順位はこの差を踏まえて判断します。
活用シーン
居住・事業・金融の三方向で役立ちます。用途に合わせて確率論とシナリオを使い分け、定量と定性の両面で意思決定を補強します。
住宅・建築計画
用地取得や設計段階で、対象地の長期リスクや想定地震時の揺れ分布を把握し、耐震等級や制振・免震の要否、非構造部材の落下・転倒対策、ライフライン代替策を検討します。中古物件の購入やリフォームでは、耐震改修の費用対効果の見積りにも直結します。
企業のBCP・サプライチェーン
拠点配置や倉庫・データセンター立地の比較、代替拠点の確保、通勤・物流の遮断リスク、備蓄量の設定、復旧優先順位づけに活用します。協力会社や輸送ルートの地図重ね合わせで、同時多発被災の可能性も検証できます。
保険・自己負担見込み
保険の付帯範囲や自己負担の想定、保険金額の適正化、免責金額の設定、家財の固定・耐震化の優先順位決定に役立ちます。賃貸では、居住階や家具固定の徹底、避難経路と家族の連絡手順まで落とし込むと実効性が上がります。
注意点と限界
予測はあくまでモデルにもとづく推定です。更新頻度、想定条件、対象外のハザードを理解し、複数資料の照合で過信を避けます。
不確実性と更新
地震発生確率や揺れの推定は前提条件に左右されます。評価モデルや観測網の高度化、研究知見の更新に合わせて数値が変わるため、最新版の凡例・前提を確認し、古い版を使い続けないことが重要です。
対象外ハザードの存在
地震動予測地図は主に揺れの強さを示します。津波、液状化、土砂災害、火災延焼、停電・断水・通信障害などは別のハザードマップや個別の評価が必要です。自治体が公表する複数種のハザードマップを重ね合わせ、複合災害を前提に備えます。
建物性能との組み合わせ
同じ揺れでも被害は建物の耐震性能や築年、維持管理で大きく変わります。耐震等級、接合部や非構造部材の補強、家具固定やガラス飛散対策、非常用電源や水の確保など、被害低減策とセットで評価することが欠かせません。
閲覧・入手方法の例
公的ポータルや研究機関の地図サービスで閲覧できます。凡例の単位や期間、前提条件を確認し、印刷や画像保存時は出典とバージョンを併記しましょう。
全国版の閲覧、地域拡大、地盤増幅の反映、震度・PGA・PGVなど切り替えが可能なサービスが整備されています。自治体や都道府県のサイトでも、地域特化の資料や解説が公開されています。学校や地域の防災訓練と連動させれば、家庭内の備えに落とし込みやすくなります。
全国地震動予測地図についてまとめ
確率論は長期的な遭遇可能性の比較、シナリオは想定地震時の具体的な揺れ分布の把握に適しています。両輪で使うことで、住宅・事業・保険の判断精度が高まります。
読む際は、期間付き確率、指標(震度・PGA・PGV)、地盤増幅の反映、対象外ハザードの有無、前提条件と更新の確認が要点です。立地・建物性能・備えをセットで最適化し、家庭や組織のレジリエンスを底上げしましょう。