新価実損払
新価実損払は、損害発生時点の再調達価格(新価)を上限として、実際に必要かつ合理的な原状回復費用を保険金でカバーする支払方式です。
別名で「再調達価格基準の実損払い」ともいわれ、経年劣化や消耗を差し引く時価基準とは異なり、いま同等のものを買い戻す・直し戻すための費用をベースに補償します。ただし支払われるのは“実際にかかった費用”の範囲であり、グレードアップ費用や通常の価値向上部分、老朽箇所の一体更新などは原則として対象外です。契約の保険金額・支払限度・自己負担額、そして見積書や領収書などの証憑整備が、支払額を左右する重要ポイントになります。
新価・時価・再調達価格の違い
用語の意味と基準の違いを正しく理解することで、受け取れる金額のイメージが明確になります。
新価(再調達価格)
同等の性能・品質のものを、事故が起きた現在時点で新たに購入・建て直し・交換するために必要な価格。市場価格の変動や資材・人件費の相場を反映します。
時価
新価から経過年数による価値の減少(減価)を控除した価格。古い設備や内装だと支払額が大きく目減りするのがデメリットです。
実損払
見積や工事・購入により実際に発生した費用(実損害)の範囲で支払うという意味。新価実損払は「新価を上限に、実損額まで支払う」仕組みです。
支払いの仕組みと算定の流れ
認定→見積→必要費の確定→支払の順で、合理的かつ原状回復の範囲に限定されます。
認定と見積の取得
損害調査(現地確認・写真・図面など)を経て対象範囲が認定されます。次に、原状回復に必要な数量・仕様で見積を作成。工事単価は地域相場や施工難易度により異なります。
支払限度と保険金額
保険金額が新価相当より低いと不足保険となり、支払額が按分で減額されることがあります。契約時に「適正な保険金額」を保つことが肝要です。
実損額の考え方(対象・非対象)
対象は原則として「事故で損傷した部分の原状回復費」。同時に、足場・養生・残存物取片付けなど、復旧に不可欠な付帯費用が含まれることがあります。一方で、高グレード素材への変更、デザイン変更、老朽箇所の計画的リフォームなど“事故と直接の因果がない費用”は原則対象外です。
証憑類の整備
写真(被害前後)・数量根拠・仕様書・見積明細・領収書等の整備が重要です。工事後に変更が生じた場合は差額精算のための追加書類が求められることがあります。
ケーススタディ:支払イメージ
典型的な3例で、新価実損払の考え方をイメージできます。
例1:屋根の暴風損傷(瓦の飛散)
被害箇所の差し替えと周辺補修、足場・養生を含む見積が100万円。適正な保険金額契約かつ自己負担なしの場合、合理的な原状回復費100万円が支払対象。全面葺き替えに伴う高性能断熱材の追加など、価値向上部分は原則対象外です。
例2:室内の漏水損傷(天井・壁紙の張替)
天井ボードの交換とクロス張替、仮設養生・撤去で45万円。デザイン変更や高級クロスへのアップグレード分は自己負担。復旧に不可欠な残材処分費・運搬費は実損として含まれることがあります。
例3:給湯器の落雷損傷(機器交換)
同等機種への交換費用20万円と撤去・設置・試運転費、配管接続に伴う部材費が実損として対象。上位機種への変更差額や機能追加費は対象外。保証延長などの任意サービスも原則自己負担です。
よくある誤解と注意点
「新価だから何でも全額」は誤解。契約条件と原状回復の原則がカギです。
全体更新=常に支払われるわけではない
一部損害でも施工上や仕上げ上の一体性から“全体交換”が合理的と認められる場合はありますが、単なる見栄え改善や便乗更新は対象外。工程・品質・安全上の必要性を説明できる根拠づくりが重要です。
不足保険・支払限度・免責金額
保険金額が低すぎると按分減額、不担保部分の発生、特約限度の到達などで支払が想定より少なくなることがあります。自己負担(免責)も差し引かれる点に注意してください。
グレードアップ費の線引き
断熱性能や耐久性の向上など“合理的な同等品”の幅は一定の裁量がありますが、明確な価値向上は自己負担。仕様差額が混在する見積は、比較表で差額明示するとスムーズです。
区分所有・賃貸での境界
専有部・共用部の線引き、借家人賠償や個人賠償との関係整理が必要です。管理規約・賃貸契約の修繕負担区分をあらかじめ確認しておきましょう。
関連する特約・費用との関係
新価実損払と併用される代表的な特約・費用を知っておくと、実費に近い復旧が実現しやすくなります。
法令適合費用
復旧に際して新たな法令・条例への適合が必要となる場合の追加費用を補償。耐震・断熱・防火などの基準改正に対応するための費用をカバーします(限度額あり)。
残存物取片付け費用・臨時費用
瓦礫・廃材の撤去や運搬、仮住まい・仮設備のための臨時的費用を補償する条項。新価実損払の原状回復費と組み合わせることで、自己負担の発生を抑えやすくなります。
修理付随費用・損害拡大防止費用
足場や夜間養生、応急処置に要した資材・人件費など、被害拡大を防ぐために緊急で実施した費用を対象とすることがあります。早期の記録・連絡が重要です。
新価実損払についてのまとめ
「新価を上限」「実損の範囲」「原状回復の原則」を押さえ、適正な保険金額と証憑整備で取り漏れを防ぎましょう。
新価実損払は、いまの価格で合理的に元へ戻すための費用をカバーする強力な仕組みです。とはいえ、契約の保険金額や限度、実損の線引き、グレードアップ費の扱い、関連特約の有無などで支払額は変わります。事故時には被害状況の記録、適切な見積作成、証憑の整備を徹底し、必要に応じて専門家へ相談することで、納得感のある支払へつなげられます。