受託物賠償責任補償特約
他人の物を預かっている間の破損・汚損・滅失などで法律上の賠償責任を負ったときに備える特約。通常の対物賠償では除外される「受託物」を補償対象に含めます。
受託物賠償責任補償特約は、保管・修理・加工・展示・運搬などで他人の物を自らの管理下に置く事業や個人のためのリスクヘッジです。事故の類型は落下・衝突・水濡れ・薬剤付着・火災・盗難など多岐にわたり、支払は約款・特約条項に基づいて法律上の賠償責任が認められる範囲で行われます。
特約の概要
受託物の定義と補償の基本を押さえることが、設計と運用の第一歩です。
受託物とは、所有者が別人である物を一定目的で一時的に引き受け、自らの管理下に置くことをいいます。本特約は、その管理中に発生した事故で法律上の損害賠償責任を負った場合に、修理費や再調達費などを限度額内で補償します。限度額・免責金額・盗難時の施錠要件などは商品ごとに異なります。
対象となる場面と典型例
クリーニング・修理・施工・レンタル・倉庫・店舗など、受託が日常的に発生する業態で必須です。
クリーニング・メンテナンス
衣類の変色・縮み、革製品の水濡れ変質、ボタン破損、付属品紛失など。薬剤や工程の管理義務が問われます。
修理・リペア・工事
家電やカメラの落下破損、搬送中の衝撃損、保管中の水濡れ、引き上げた部材の損傷など。養生や固定の手順が焦点になります。
美容・写真・販売店・イベント
薬剤飛散によるコート汚損、ブース展示品の破損、預かりロッカー内の損傷など。区画管理と案内表示が重要です。
レンタル・サブスクの回収・倉庫内一時保管
返却品の検収時の破損、倉庫内の誤積み・落下など。台帳・写真・区画の管理がカギになります。
補償範囲と支払の考え方
「法律上の賠償責任」「相当因果関係」「評価方法」の三点が実務の肝です。
法律上の賠償責任の成立
注意義務違反や管理の過失が認められるか、事故との因果関係があるかを総合判断。単なる損傷の事実だけでは足りません。
補償対象となる損害
修理費、再調達費、価値減少分など。応急処置費用や専門清掃費用が認められる場合もあります(商品条件による)。
限度額・免責・盗難時要件
1事故・期間の限度額、自己負担額、施錠や警備体制などの条件が設定されます。高額品には個別限度があることも。
評価方法と修理可否
時価評価や修理可能性に応じて支払額が変動。専門業者の見積・査定書が重要な根拠になります。
免責事項・対象外の代表例
紛失・置き忘れ、現金や有価証券、車両・動物・データ、経年劣化、故意・重大な過失などは免責となるのが通例です。
紛失・置き忘れ・発見不能
単純な紛失や取り違えで現物が発見できない事案は対象外となるのが一般的です。
高リスク物の除外
現金・有価証券・切手・貴金属・宝石・美術品・骨董・設計図・データなどは除外が多く、別設計を要する場合があります。
特定の物品・態様
自動車・バイク・船舶・ドローン・動植物など。盗難でも施錠や警備要件を満たさない場合は不担保です。
故意・重大な過失や徐々損害
故意、重大な過失、摩耗・腐食・さび・虫食いなどの自然消耗、契約で過大な責任を負う合意は免責に該当しやすい領域です。
事故時の対応と必要書類
迅速な記録、誠実な連絡、専門的な見積・査定の手配が支払いの明確化に直結します。
初動と安全確保
二次被害の防止を優先し、事故現場の保存と立入管理を行います。必要に応じて応急処置を実施します。
証拠と台帳の整備
全景・個別損傷・型番・保管環境(施錠・警報)・作業工程の写真、預かり票、入出庫台帳、監視映像などを保存します。
見積・査定の取得
専門業者の修理見積や査定書を依頼し、材料・数量・単価・作業手間が分かる粒度で整備します。
相手方との調整と報告
相手へ迅速に連絡し、応急費用の承認や代替手配の方針を共有。原因と再発防止策を整理して保険会社へ報告します。
設計とリスク低減の実務
限度額・免責の設計、保管ルールの徹底、特殊品の明記、防犯体制の整備が肝心です。
限度額と免責のチューニング
最大預かり点数・1点の最高時価・同時保管総額に合わせて、1事故・期間の限度額と免責を設計します。
保管ルール・掲示・契約書
受入検品・写真記録・預かり票・施錠・区画管理・薬剤作業区分を標準化。受付掲示や預かり票に対象外品や申告手順を明記します。
特殊・高額品の明記
美術品・宝飾・ヴィンテージ・一点物などは、特定受託物として事前明記や別枠の限度設定を検討します。
防犯・施錠・警備体制
カメラ・入退室管理・夜間施錠・耐火耐水保管の導入で盗難・水濡れリスクを低減し、要件を満たす運用を徹底します。
火災保険との関係と併用
自社の財物損害は火災保険、預かり品への対顧客賠償は受託物特約。役割分担を明確にします。
施設内の火災・水濡れで預かり品が損壊した場合、施設の復旧は火災保険、顧客への賠償は受託物賠償特約で対応するのが一般的です。施設賠償責任保険の基本補償は受託物を除外するため、預かり業務があるなら特約付帯の有無と内容を必ず確認しましょう。
受託物賠償責任補償特約についてまとめ
預かり業務の実態に合わせた限度額設計と運用ルール整備、そして事故時の迅速な記録・連絡体制が安心を支えます。
補償の射程は「法律上の賠償責任」と「対象受託物」によって決まります。上限額・免責・除外条項・盗難時要件を把握し、高額・特殊品は明記や別契約を検討。事故時は写真・台帳・査定書で根拠を整え、誠実な対応と再発防止策の実装で信頼と事業継続性を高めましょう。