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再調達価額

再調達価額(さいちょうたつかがく)とは、事故前と「同等の建物・設備・家財」を現在の市場で新たに新築・購入・取得し直すために必要となる金額(新価)を指します。

中古相場を基準とするのではなく、当時の仕様・性能と同等水準に復旧するために必要な現在価額を基準とします。具体的には、材料費・職人賃金・設計監理費・運搬費・各種諸経費、さらには工事に不可欠な仮設や足場など、実際の再築・再購入に必要な費用を含めて評価します。火災保険では、保険金額の設定や保険金支払いの根拠に直結する最重要概念であり、「時価(=再調達価額-減価)」と対で理解することが実務上の基本です。

用語の整理と位置づけ

類似概念を明確に切り分けることが、誤契約や不足保険の回避につながります。

● 時価額

再調達価額から経年劣化や機能低下分(減価)を控除した評価。中古実勢に近い概念であり、復旧水準を引き下げる可能性があります。

● 新価(新価額)

再調達価額と同義。事故前と同等のものを新品でそろえるための費用です。

● 保険金額

契約時に定める補償の上限額。再調達価額に比べて低いと、部分損でも比例てん補により満額を受け取れないリスクがあります。

再調達価額の算定方法

年次別指数法(取得価額法)と概観法(新築費単価法)の2系統が実務の中心です。

● 年次別指数法(取得価額法)

取得時の建築価額を起点に、建築費指数などの物価変動を加味して現在価額に補正する方法です。長期保有で材料費・人件費が大きく上昇している場合にも指数により現況へ引き直せる点が強みです。

● 概観法(新築費単価法)

現在の標準的新築費単価(1㎡あたり)に延床面積を乗じ、構造・仕様・地域・設備などの補正係数を反映して求める方法です。図面や確認申請、登記面積、外構や付帯設備の扱い整理が精度の要点です。

資料が充実していれば年次別指数法、資料が乏しい・増改築が多い・用途変更を繰り返しているなどの場合は概観法を選択するのが一般的です。双方を併用して妥当性をクロスチェックする実務も多く見られます。

評価に含める費用・含めない費用

復旧に不可欠かどうか、事故前の仕様水準を超えないかが判断軸です。

● 含める代表例

設計監理費、仮設・足場、諸経費、運搬費、標準的な解体・撤去、法適合のため通常必要となる仕様変更費など、復旧に不可欠な費用群。

● 含めない代表例

グレードアップ(高級仕様化)による差額、用途変更に伴う増築費、事故前に存在しなかった過剰設備の新設費用などは原則対象外です。

家財・設備の再調達価額

「同等品を今買い直すといくらか」を現行価格で積み上げます。

● 基準と情報源

価格表、メーカー希望小売価格、業者見積、領収書、EC相場、在庫の棚卸表などから現行価格を把握し、機能・容量・性能が同等の代替品価格で評価します。

● 注意点

プレミア価値や骨董的価値は通常の火災保険評価では対象外。販売終了品は後継機・同等機能の現行品で代替評価し、セット品は構成単位で積算します。

再調達価額が重要な理由

保険金額の適正化・保険料の妥当化・迅速な復旧を実現します。

● ① 保険金額の適正化

保険金額が再調達価額を下回る不足保険では、部分損でも比例てん補により受取額が縮小します。適正な保険金額は復旧資金の確保に直結します。

● ② 保険料の妥当化

過大な保険金額は過払い、過小は支払時の不足リスク。再調達価額に整合させることでコストと補償のバランスを最適化できます。

● ③ 迅速な復旧

新価実損払い等の特約適用場面で必要額が早期に固まり、見積・工事手配・資金計画のリードタイムを短縮できます。

実務フロー

資料確認→方式選択→単価・補正反映→整合チェックの順で詰めます。

● ステップ1:資料確認

登記、検査済証、確認申請、設計図・仕様書、過去の取得価額、築年、構造(木造・鉄骨・RC)、用途、付帯設備の有無を確認します。

● ステップ2:方式選択

資料が十分=年次別指数法。資料が乏しい・増改築多数・用途変更歴あり=概観法。状況に応じて併用し妥当性を検証します。

● ステップ3:単価と補正

地域係数、物価指数、仮設・諸経費、特殊設備(EV、太陽光、受変電、非常用発電機、厨房設備など)を過不足なく反映します。

● ステップ4:整合チェック

延床面積の定義(バルコニーやポーチの扱い)、地盤改良や外構の範囲、法改正による仕様変更コストの取り扱いなど、境界条件を明確化します。

活用例

物件種別ごとの評価ポイントを押さえると精度が上がります。

● 戸建住宅

築25年の木造。取得価額2,000万円。建築費指数で現在価額へ補正すると再調達価額は2,800万円に。保険金額が1,800万円のままだと不足保険の恐れがあり、2,800万円へ適正化します。

● 共同住宅(分譲・賃貸)

共用部は管理組合、専有部は各戸で評価。造作・床暖・システムキッチン等の仕様差を個別補正し、配分基準も明確化します。

● 店舗・事務所

内装、厨房、什器備品、受変電・電気容量増設などの用途設備が評価の肝。テナント入替で仕様が変わりやすいため更新時に実地確認します。

よくある誤解

中古価格で十分、という認識は復旧水準を下げる可能性があります。

● Q1:中古価格(時価)で足りる?

A1:再調達価額は同等品を新品で用意する費用。中古相場とは異なり、実際の復旧計画を成立させる金額の把握が目的です。

● Q2:物価上昇は自動で反映される?

A2:契約を見直さない限り追随しません。更改時に指数反映や概観法での再評価を行うことが重要です。

● Q3:消費税や設計費は含められる?

A3:復旧に実際必要となる範囲は原則含めます。境界の線引きは約款や実務運用に従い、事前に確認しておきます。

見直しのトリガー

指数変動・用途/仕様変更・面積や法要件の変更・大口設備導入がサインです。

● 物価・指数の変動

資材や人件費の高騰・下落があった時期は再評価を検討。長期契約ほど乖離が生じやすく注意が必要です。

● 用途・仕様変更

リフォーム、設備増設、太陽光・蓄電池の後付け、エレベーター新設など仕様水準の変化は金額に直結します。

● 面積・法的要件

増築や用途変更、法改正対応(省エネ基準、耐震改修等)は必要額を押し上げるため、保険金額の更新時に反映させます。

証拠・立証資料

平時から資料を整えておくことで、査定と支払いがスムーズになります。

● 建物

図面、仕上表、仕様書、過去見積、請負契約書、検査済証、竣工写真など、仕様と規模を示す一次資料を整理します。

● 家財・設備

型番・購入時期・数量の分かるレシート、納品書、保証書、棚卸表、メーカー見積などを保管します。

● 第三者資料

価格カタログ、指数資料、見積比較表等で評価の妥当性を補強します。

注意点

不足保険、グレードアップ差額、特約の前提条件、付帯・外構の扱いを確認します。

● アンダーインシュアランス

保険金額が再調達価額を下回ると、部分損でも按分減額の可能性があります。定期的な見直しが不可欠です。

● グレードアップ差額

事故前より高仕様にする差額は原則自己負担。復旧の範囲と水準を事前に共有しておきます。

● 特約の前提条件

新価実損払い等は復旧の事実、見積、領収の提出などが条件になる場合があります。要件を確認し、証拠書類を整備します。

● 付帯・外構の扱い

門塀、外構、擁壁、太陽光、蓄電池、屋外配管等が契約の「対象物」に含まれるかを契約書で確認します。

再調達価額についてのまとめ

保険金額は「再調達価額」にできるだけ近づけるのが実務の最適解です。

再調達価額は、復旧資金の現在価値を示すものです。物価・仕様・面積・用途の変化で乖離が生じやすいため、年次別指数法や概観法で定期的に見直し、付帯設備や外構、設計・諸経費の扱いも明確化しましょう。家財は同等品の現行価格で積み、領収・型番等の証拠を平時から整えることで、査定から支払いまでのプロセスが円滑になります。