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共同保険

複数の損害保険会社が割合(シェア)を定めて共同で1契約を引き受ける仕組み

共同保険とは、単独の保険会社では引受限度やリスク許容度を超える大口・高難度のリスクに対して、複数の損害保険会社が引受割合を取り決め、契約全体を分担して引き受ける方式です。契約者との主たる窓口となる幹事会社(リードカンパニー)を定め、見積・契約・異動・事故査定などの実務を取りまとめます。各社は自社シェアの範囲のみ支払責任を負い、全体として十分な補償枠を確保できる点が最大の特徴です。

共同保険の基本構造

幹事会社が条件統一と実務を主導し、参画各社は決定した割合で責任分担

幹事会社の役割

幹事会社は、契約者との主窓口として、補償範囲・特約・免責・評価方法(新価/時価/再調達価額)・支払限度・通知義務などの条項を成文化し、参画各社(フォロワー)と条件の統一を図ります。見積、条件協議、証券発行、事故発生時の鑑定人手配と査定の取りまとめ、保険料按分の管理までを主導します。

参画各社の責任(比例・不連帯)

共同保険では、各社は自社の引受割合(例:A社40%・B社35%・C社25%)に応じてのみ支払責任を負います。ある社の支払遅延や破綻があっても、他社が当然に肩代わりする仕組みではありません(不連帯)。このため、契約者側は各社の信用力や格付の確認も重要となります。

証券・書式の型

共同証券(1通に共同引受の内訳を明示)、各社連名の記載、付帯覚書で割合を規定する形などが一般的です。金融機関提出や入札要件への適合、監査対応など、利用目的に応じて見せ方を設計します。

再保険との違い

共同保険は“表の共同引受”、再保険は“裏のリスク移転”

共同保険は契約者から見て複数社が表に出て共同で引き受けます。一方、再保険は元受保険会社が締結した保険を、裏側で別の保険会社に分散する手法であり、契約者の相手方はあくまで元受会社1社のままです。窓口・支払義務者・開示の範囲が異なる点を明確に区別します。

共同保険が用いられる主な領域

高額・高難度・広範囲のリスクで効果を発揮

大型建物・包括契約

病院、商業施設、物流センター、教育機関、データセンターなど、保険金額が巨額で、付帯条項や設備構成が複雑な物件に適します。建物・設備・什器一括や、複数拠点を束ねる包括契約でも用いられます。

建設・組立・賠償・機械・利益補償

建設工事保険・組立保険、製造物責任や施設賠償の大口案件、機械設備保険や利益補償(営業休止による粗利益損失の補償)が絡むケースでは、評価や査定の専門性が高く、共同保険での分担が有効です。

特殊危険・高蓄積

危険物の取り扱い、大規模な可燃物蓄積、高額な電子機器の密集、インフラ・公共施設での連鎖的損害など、単独社での保有が難しい蓄積リスクでも共同保険が選択されます。

保険料・異動・事故の実務フロー

「統一条件 → 按分 → 合意形成」の段取りが肝

保険料の按分と支払方法

総保険料を参画各社の割合で按分します(例:総保険料1,000万円→A社40%は400万円)。契約者から幹事会社が一括で受領し各社に配分する方式、または契約者が各社へ個別払とする方式があり、運用により選択します。

異動・更改・解約の扱い

保険金額の増減、物件追加・削除、用途変更、評価方法の改定、割合変更や参画社入替、短期率や最低保険料、返戻方法は、事前に文書でルール化します。期中の重大な危険増加は、幹事会社経由で速やかに全社承認を取得します。

事故発生時の査定と支払

幹事会社が鑑定人を手配し、損害調査・査定報告を取りまとめ、参画各社に回付します。損害額・適用条項・費用保険金の扱いなどの合意形成後、各社が自社割合分の保険金を支払います。合意形成の遅延を防ぐため、査定基準と根拠資料(見積書、設計図、点検記録、帳票類)をあらかじめ合意しておくことが重要です。

重複保険・超過保険との違い

共同保険は「1契約を複数社で按分」、設計思想が異なる

重複保険との違い

重複保険は、同一の利益に対し複数契約を別々に締結している状態で、損害額を超えて保険金は受け取れません(比例按分)。共同保険は単一の契約を複数社で分け合うため、設計・窓口・査定フローが全く別物です。

超過保険との違い

超過保険は、保険金額が評価額(新価・時価など)を上回る状態で、実損を超える支払は行われません。共同保険は評価を適正化したうえで複数社で分担するため、超過保険のような過大設定の問題とは本質的に異なります。

メリットと留意点

補償枠の拡大と専門性の確保/条件不一致と事務負荷に注意

メリット

①巨額・高難度リスクに対して十分な補償枠を確保できる、②各社の専門知見を結集し査定の品質を高められる、③単独社偏重を避け価格・条件の妥当性を確保しやすい、などの利点があります。

留意点

条項の統一が不十分だと、事故時の解釈差異が支払遅延や紛争の火種になります。情報共有(危険増加、用途変更、大規模修繕、保守体制の変更等)は幹事会社経由で全社に速やかに行い、書面で証拠化します。参画各社の財務健全性や格付にも留意し、万一の支払不能リスクを低減します。

実務チェックリスト

契約前に「条件統一・評価・運用ルール」を固める

主な確認項目

・評価方法(新価/時価/再調達価額)と保険金額の妥当性
・危険の承認範囲、免責、費用保険金の上限
・特約の有無と支払基準
・損害防止費用、残存物取片付け、臨時費用の扱い
・待機期間や支払限度(利益補償がある場合)
・異動・更改・解約・返戻の運用
・事故時の鑑定人選任・合意形成の手順
・証券様式と共同引受内訳の明示
・情報共有と承認プロセス(全社同報)

共同保険についてのまとめ

単独では扱いにくい大口リスクを、複数社の力で安全に分散・管理する共同引受の枠組み

共同保険は、高額・高難度・高蓄積のリスクに対し、複数社が割合で責任を分担して十分な補償枠を提供する実務的な仕組みです。幹事会社を窓口に条件を統一し、評価の適正化と合意形成の迅速化を図ることで、支払の透明性とスピードを両立できます。重複保険・超過保険・再保険との違いを明確化し、契約前に運用ルール(異動・事故・更改)を合意しておくことが、円滑な運用と紛争予防の鍵となります。