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経年減価

経年減価は「時間の経過や使用によって資産価値が下がった分」を金額で表したもの

建物や家財、設備などは年月の経過とともに劣化し、性能や見た目が新品時より低下します。
火災保険の損害額計算では、この価値の減少分を経年減価として考慮し、支払額の妥当性を判断します。
新価(再調達価額)と時価のどちらを基準にするかは契約や約款、特約によって定まり、全損・半損・一部損の各場面で適用が分かれることがあります。
適切に理解しておくことで、災害発生時の見積や査定への対応がスムーズになり、想定外の自己負担を避けやすくなります。

経年減価と火災保険の関係

火災保険では「新価」と「時価」という2つの価額基準を使い分ける

新価は、同等品を現在新たに入手するために必要な金額です。
時価は、新価から経年減価を差し引いた金額で、価値の目減り分を織り込んだ水準となります。
契約内容によっては、家財や明記物件など一部の対象で時価が参照される場合があります。
新価基準が適用される設計でも、修理費が新価を超える見積やグレードアップ分は支払対象外となり、合理的復旧費用に調整されます。
築年数や保守状況によって経年減価の大きさが変化するため、同じ損害でも受け取れる金額が異なることに留意が必要です。

経年減価の考え方と構成要素

経年減価は「物理的劣化」「機能的陳腐化」「経済的減価」を総合して評価する

● 物理的劣化

日常使用、風雨、紫外線、温度変化などで発生する摩耗や損傷を指します。
屋根の塗装の色あせ、外壁のひび割れ、配管の腐食、床材のすり減りなどが代表例です。

● 機能的陳腐化

技術進歩や規格変更により、現行の設備や基準と比べて機能や性能が見劣りする状態です。
断熱性能の低い旧式サッシ、電力効率の劣る古いエアコン、制御盤の旧規格などが該当します。

● 経済的減価

周辺環境や需要の変化によって価値が下落する現象です。
エリアの人気低下や近隣インフラの変更などが影響要因となり得ます。

基本式と評価の進め方

時価=新価-経年減価(新価は再調達価額を用い、減価は個別事情で補正)

新価は同等の品質・規格・性能を満たす復旧に必要な水準で見積もります。
経年減価は、経過年数と標準耐用年数の関係を基礎としつつ、保守状況、仕様、使用頻度、屋内外の別、製造中止の有無などを勘案して補正します。
単純比例だけでは実態に合わない場合があるため、部位別や機器別の評価カーブや査定表が用いられることがあります。
復旧見積にグレードアップが含まれると支払対象外となる増加費用が発生し得るため、同等復旧の範囲を明確にしておくことが重要です。

計算例(建物・家財・部分損)

例1:住宅(建物全体)

新価:2,000万円
耐用年数:30年
経過年数:10年
経年減価率=10年÷30年=33.3%、経年減価額=約666万円、時価=約1,334万円

例2:家電(家財)

新価:20万円
耐用年数:6年
経過年数:4年
経年減価率=4年÷6年=66.6%、経年減価額=約13.3万円、時価=約6.7万円

例3:屋根材(部分損)

新価:150万円、耐用年数:25年、経過年数:12年、経年減価率=48%、時価=78万円。
損害割合が50%であれば、対象額は概ね39万円(免責金額や細部の調整前)。
新価基準で部分修理を行う設計なら、同等復旧の合理的費用が支払対象となり、過剰性能分は控除されます。

実務でのチェックポイント

時価基準契約では経年減価が支払額に直結する

古い建物や家財では減価が大きく、想定より受取額が低くなることがあります。
契約時点で基準(新価か時価か)を把握し、必要に応じて補償内容を見直すことが重要です。

新価基準でも支払は合理的復旧費用の範囲

デザイン変更や仕様アップで発生する増加費用は支払対象外となるのが一般的です。
見積書は同等復旧の工事内容と数量がわかる形で作成し、グレードアップ分を分離しておくと査定が円滑です。

部位別評価と資料整備が査定精度を高める

屋根、外壁、内装、設備機器などは耐用年数が異なるため、まとめずに個別評価します。
納品書、型式、製造年、メンテ履歴、設計図、現場写真などの資料を整えることで、適切な補正が行いやすくなります。

注意点と落とし穴

経年減価は一律計算ではない

築年数だけでは実態を反映できません。
屋外暴露の程度、海風や凍結の影響、使用頻度、点検と補修の状況などで劣化スピードは変わります。

耐用年数を超えても価値ゼロではない場合がある

外観や機能が維持されていると残存価値が認められることがあります。
一方で安全性や規格適合の観点から交換が前提となる設備もあるため、個別判断が必要です。

家財・設備は減価が早い

家電や家具は短期間で時価が大きく下がる傾向があり、災害時の補償額が想定より低くなることがあります。
買替周期や保証書の保管、品目ごとの写真管理など、平時からの備えが有効です。

経年減価についてのまとめ

経年減価は火災保険の支払額を大きく左右する重要な要素

新価と時価のどちらが自分の契約で適用されるかを確認し、古い資産が多い場合は新価基準の検討も視野に入れます。
同等復旧の原則と増加費用の扱い、部位別評価や資料整備の重要性を理解しておけば、査定や交渉で過不足のない判断につながります。
定期的に補償内容と資産状態を見直し、災害時にも慌てない備えを整えておくことが安心に直結します。