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共有部分

共有部分の火災保険は「建物・設備の復旧費」だけでなく「原因調査費」と「第三者への賠償」まで含めた三位一体の設計が必須です。

分譲マンションの保険は専有部分と共有部分に分かれます。事故時には区分所有者同士、または管理組合と区分所有者の間で賠償責任が発生し得るため、共有部分の保険は「復旧費」だけでなく「原因調査」と「賠償」まで網羅する必要があります。特に共有配管の漏水は、修理費よりも原因特定の調査費が高額化しやすく、築年数の経過に伴って事故率と費用が増大します。まずは「どこまでが共有か」「誰が契約主体か」「何が補償されるのか」を明確にしておきましょう。

共有部分の範囲と契約主体

共有部分とは、構造躯体や共用設備、共用動線など管理規約で定められる範囲を指します。

構造躯体

柱・梁・外壁・屋根・床スラブなど、マンション全体の耐力や外皮を成す部分。長期修繕計画の核心領域であり、損害時の復旧費が高額になりやすい領域です。

共用設備

給排水の立管・横引き管、受水槽・増圧ポンプ、受変電設備、共用分電盤、エレベーター、機械式駐車場、インターホン・防犯カメラなど。老朽化や偶然な事故で停止すると生活導線に直結する損害が発生します。

共用空間

エントランス、共用廊下、階段、集会室、メールボックス、ゴミ置場、屋上・バルコニーの共用部など。破損・汚損・水濡れによる二次被害が波及しやすい領域です。

契約主体は通常、管理組合です。保険の目的は「共有部分の建物・付属設備一式」とし、再調達価額ベースで設定するのが一般的です。対象範囲は管理規約・使用細則と整合させ、境界(専有・共有の区分)を明文化しておくと実務での紛争予防に有効です。

想定事故と補償の考え方

共有部の事故は被害範囲が広がりやすく、原因調査→一次復旧→二次復旧→賠償調整の流れを前提に設計します。

漏水(共用配管起因)

立管のピンホール、継手劣化、腐食、凍結、詰まり、床下配管の損傷など。専有内の天井・壁・床に水濡れ被害が出やすく、調査費と二次復旧費が嵩みます。

火災・落雷・爆発

電気設備や受変電設備の異常、共用盤のトラブルなど。停電や設備停止に伴う共用導線の制約が発生します。

風災・雪災・水災

屋上防水の破断、外壁・開口部の損傷、豪雨による浸水や吹き込み。仕上げ材の張替えや防水層の部分更新が必要になります。

破損・汚損・盗難も想定します。エントランスガラスの破損、掲示板やポストの損壊、共用備品の盗難など、小口でも反復しやすい損害は免責設定と修繕積立金の併用で最適化します。

費用構造(漏水・水濡れ)

漏水事故は「調査費」が先行し、総額を押し上げるのが特徴です。

原因調査

サーモグラフィ、配管内視鏡、散水試験、段階的な開口(天井・壁・床)による特定。非破壊→限定開口→確定の順で工事影響を最小化します。

一次復旧と二次復旧

一次復旧は原因箇所の補修(継手交換、部分更新、防水パッチ)。二次復旧は開口部の原状回復、塗装・クロス・床材張替え、躯体乾燥、清掃です。

居住配慮費用(養生、通行規制、夜間作業割増、住戸調整の事務工数)や、階下住戸への賠償対応(内装・家財の損害)が追加で発生します。これらが合算され、結果として保険金と事務費用が年々増加します。

保険料上昇の主因

築年数の経過による事故率上昇と、資材・人件費の高騰が保険料を押し上げます。

老朽化

継手の経年劣化、腐食、スラッジ堆積、耐用年数超過により漏水リスクが上昇。事故件数の増加は翌年以降の料率や免責条件に反映されやすくなります。

工事・調査単価の上昇

職人不足、資材価格の高止まり、夜間・休日作業の割増。非破壊検査の併用や段階調査の増加もコスト要因です。

広域災害の頻発による保険金支払い総量の増加、事故対応の標準化に伴う事務コストの増大も背景です。結果として、共有部分の保険掛け金は毎年の見直しで値上がりしやすい傾向にあります。

賠償と境界の整理(専有との関係)

原因が共有配管でも、被害は専有内に現れる——負担区分の合意が鍵です。

標準的な扱い

管理組合の保険で「共有部の原因箇所修繕」と「第三者への賠償(施設賠償責任)」をカバー。被害住戸の内装・家財は、原則として各住戸の火災保険を優先活用し、過失や責任割合で調整します。

管理規約・細則で境界(配管のどこまでが共有か)、一次連絡先、緊急時の入室基準、負担区分、記録方法を明記しておくと紛争を抑止できます。

推奨される特約・設計の考え方

実態に合わせて「原因調査費」「水濡れ損害」「施設賠償責任」などを拡充します。

原因調査費用

原因特定に必要な開口・検査・一時復旧を補償。調査の段階性を前提に、非破壊→限定開口→確定のプロセスを対象化します。

水濡れ損害

二次被害(天井・壁・床・共用仕上げ)の復旧を補償。乾燥・消毒・カビ対策も含めて設計します。

施設賠償責任

共用部の管理・構造上の不備で第三者(居住者・来訪者)に損害が生じた場合の賠償を補償。専有との重複は事故ごとに調整します。

設備の突発的故障

受変電設備、エレベーター、機械式駐車場等の不測かつ突発的な事故を補償。停止に伴う共用導線への影響を最小化します。

臨時費用・残存物取片付の補償設定も有効です。事故後の追加費用や片付け費用を計上しやすくし、清掃・仮設・廃材搬出の実費に備えます。

免責金額と自己負担の設計

小口事故は自己負担で吸収し、大口リスクを保険で受ける設計が合理的です。

免責設定の狙い

反復する小損害を修繕積立金で処理し、免責を高めに設定して保険料を抑制。高額・低頻度の事故に備えて保険金額を確保します。

年次の事故データ(件数・原因・平均支払額)を分析し、免責・支払限度・対象範囲を見直す運用が効果的です。施工会社や保険代理店と協働し、再発防止もセットで管理します。

事故対応フロー(初動〜精算)

初動は「止水・安全確保・記録」。その後に調査→一次復旧→二次復旧→精算の順で進めます。

初動対応

止水、通行規制、感電・転倒防止。発見時刻、被害範囲の記録(写真・動画・ヒアリング)を即時に実施します。

調査・復旧・賠償

非破壊調査→限定開口→原因確定。一次復旧(原因箇所修理)→二次復旧(仕上げ原状回復)。階下住戸の内装・家財は賠償や住戸保険と調整します。

精算では見積対比、免責適用、賠償調整、工程・記録の共有を行い、再発防止策(点検周期・部材更新・止水バルブ整備)を組み込みます。

共有部分についてのまとめ

共有部分の保険は、老朽化で増える漏水と高騰する調査・復旧費に備える基盤です。

契約主体は管理組合、対象は構造躯体・共用設備・共用空間。想定事故は漏水・水濡れが中心で、原因調査費と二次復旧費のカバーが要点です。保険料上昇の背景(老朽化、工事単価・事務コスト増)を踏まえ、免責設定で小口事故を自己負担しつつ、大口リスクを保険で受ける設計が有効です。推奨特約(原因調査費用、水濡れ損害、施設賠償責任、設備の突発的故障、臨時費用等)を実態に合わせて調整し、事故対応フロー(初動・調査・復旧・精算)を定型化しておくことで、住民の安心と費用の最適化を両立できます。